優しいオバケのいる田舎の家
これは、田舎の大きめの家を借りていた時の話。
入居する時に全て処分したが、前の住人の布団やタンス、ベッド、鍋などが置いたままだった。
仏間は仏壇こそないが、そこに人の気配がして、“オバケが何人かいるなぁ”と思った。
初めは、そのオバケは私たちをよそ者扱いして冷たかったが、そこの大家の玄孫(やしゃご・・・孫の孫)がうちの子と同い年で、一緒に遊んだり泊まったりするうちにオバケは優しい雰囲気になった。
突然の雨を知らせて洗濯物を濡らさず済んだり、私にとって嫌な人が来ると具合を悪くさせて帰してくれたり。
ある日、オバケがやたらとざわめいていた。
引き戸の部屋をパーンと音をさせて開けたり閉めたりして、他の家族を怖がらせるくらいだった。
ちなみに、引き戸のある部屋は2階で、この時は誰もいなかった。
話しかけても反応がなく、悲しそうな、焦ったような感じが伝わってくるだけ。
「何だろう?」と思ったが、そのままにしていた。
しばらくした頃、廊下から水音がして行ってみると、なんと壁からポコポコと結構な勢いで水が溢れていた。
穴も何も空いていないのに。
半径30センチくらいの円形で、壁の真ん中から湧き水のように。
たまたま家族全員が揃っていたので皆で唖然と見ていたが、私は仕方ないなぁと思って、家族にタオルケットやバスタオルを持って来させて床に置いた。
結局、タオルケット2枚、バスタオル数枚がビシャビシャになったが、水は数時間で止まった。
その際に私は、「私がいる間は大切に住まわせていただきます。どうかご心配なさならいで下さい」と、心の中で伝えていた。
後日、その日に大家さんのお婆さんが亡くなったことを、近くに住む人から聞いた。
息子に買ってもらった家でとても大切にしていたが、息子さん夫婦が亡くなり、孫夫婦の世話になるため都心に越したお婆さん。
本当はこの家が大好きだったそうで。
私にとっても、いい思い出のある素敵な田舎のお家だった。
(終)