ヒビ割れた壁の隙間から見えた光景
これは、私が子供の頃に体験したほんのり怖い話。
ある日、姉がこんな話をしてきた。
「縁側のところの廊下、壁に行き当たるでしょ。あそこ、昔は部屋があったんだよ。人に貸してたんだけど、その人が自殺したから埋めたの。いま剥げてきてるから、もしかしたら部屋の中が見えるかもね」
そして実際にその壁のヒビ割れた隙間を覗いて、「わ!見える見える!あれ、人がいる!なに、あれ」と騒ぎだした。
少し気になったけれど、その時は夏だったので、壁に顔を近づけると剥がれかかった土壁のキラキラしたものが汗で顔に付きそうなのが嫌でスルーしていた。
それからも、姉は時々「隙間見た?」と聞いてきたけれど、私はやっぱり顔にキラキラが付いたら嫌だから見なかった。
秋になった頃、姉が「隙間見た?」と聞いてくることはなくなっていたけれど、私はずっと気になっていたのでその隙間を見てみることにした。
ヒビ割れた壁の隙間を覗いてみると、そこにはオレンジ色の電球に机、小さい机と洗面台が見える。
そして、腰の曲がったちょっとふくよかなおばあさんがいた。
全体的に中は暗かったけれど、そんな感じだったと思う。
覗いた時、おばあさんは座布団に座っていたけれど、急に立ち上がり、洗面台の辺りから包丁を手に取ると、ゆらゆらと私が覗いている隙間の方に近づいてきた。
私は凄く怖くなり、ダッシュで居間に駆け込んだ。
そしてたった今見たことを姉に説明したけれど、姉は「今頃見たの?あれ、嘘だよ。見たら嘘だって言おうと思ったのに全然見ないんだもん。忘れるところだった」と笑うだけで全く信じてくれなかった。
この話はこれで終わりだけれど、あの時に暗示のようなものにかかっていたとしても、当時はほんのり怖く、今でも正直怖い。
(終)