そこに寝ているはずの3歳の息子がいない
これは5年前、息子が3歳の頃の話。
盆暮れの熱帯夜、肌の不快なベタつきと喉の渇きで不意に目が覚めた。
目を擦りながら、ふと嫁さんと俺の間、息子が寝ているはずの場所を見る。
・・・が、可愛い盛りの息子の寝顔がそこに無かった。
息子が見たもの
んん?と、息子が行きそうな場所を寝惚けた頭の中に巡らせる。
寝苦しさから涼を求め、ベッドの下にでも行ったか?
はたまた冷凍室にある大好きな氷でも触りにキッチンへ?
少しずつ冴えてくる思考の中の、可能性が高そうな所へ行ってみようと腰を上げた矢先、「ギギギギ・・・ギギ・・・ギィ」と聞こえた。
ああ、居場所が分かった。
盆に教えた、仏壇に手を合わせる行為をえらく気に入っていた息子は、普段の生活の最中も「のんのんちゃんするっ」と言って、観音開きを得意気に開けては御参りをしていた。
※のんのんちゃん
仏壇に手を合わせる行為、または仏壇そのもののこと。
やれやれという気持ちで仏間へ向うと、案の定、開かれた仏壇の前に見慣れたシルエットがそこにあった。
だが、明らかに様子がおかしい。
息子は手を合わせるのではなく顔を、いや、目を覆い隠し、不自然な程ガクガクと震えている。
只事ではない様子に「○○っ!」と名前を呼びながら小さな背中に近付くと、俺の存在に気が付き、顔中が涙と鼻水に濡れた泣き顔をこちらに向け、大きく息を吸って精一杯の大声で状況報告をした。
「のんのんちゃんがおこってるううううう!!」
すぐに息子を抱えて嫁を起こし、車で30分の俺の実家へ逃げた。
それだけで、それ以降も何もないが・・・。
ただ一番怖いのは、のんのんちゃんを教えたのは実家、そして当時住んでいた家は借家で、それも『観音開きの中は空っぽ』だった。
(終)