その道は夜間になると通ってはいけない
これは、私の若い頃の話です。
私の住んでいた島には、『天狗の道』、『蛇の道』、『天狗の棲家』、『マイシンキョウ跡?』などと呼ばれる道がありました。
これらは名称は違えど同じ場所を指すのですが、その道は“夜間になると通ってはいけない道”となります。
2車線ほどの幅で、3区画に分かれている島の地区を結ぶただの道なのですが、そこを通って家に帰ると親にバレて叱られます。
私の場合は祖父が親代わりだったので、よく叱られました。
ただの迷信?それとも・・・
初めて蛇の道に行ったのは、高校生になってすぐ。
島の特権というかなんというか、私達は高校生になると親から原付が貰えます。(男だけですが)
原付を与えられた高校生が一番初めにする事は、女の子を乗せてドライブ。
無免許ノーヘル2人乗り上等の、無法者の完成です。
大人に見つかると島中に噂が広まって、「家に連れて来い」だのやいのやいの言われるので、まだ付き合ってすらいない状態であったりとか、別に気がない女の子を乗せたりもするので、誰にも見つからない蛇の道へ行きます。
夜間は高校生にとって最高のたまり場です。
大人は来ません。
蛇の道に居るとバレていたとしても、絶対に大人は来ないのです。
酒は飲み放題だし、歌も歌い放題。
先輩が仕切る「0-400」で勝てばお金が貰えるし、麻雀でもお金が貰える。(0-400とは、加速性能を示す数値で、停止状態からの発進後400メートルの距離を走るのにかかる時間のこと)
学校が終わるとやることが本当に釣りくらいしかないので、みんなそうして楽しんでいました。
不良もそうでないヤツも、みんな混じって喧嘩ひとつなく。(酒が入った状態で喧嘩をすると出禁になるので)
そして家に帰ったら怒られる。
夜中に帰るから怒られるのだとばかり思っていました。
でも、それは違いました。
ある日、友人宅に泊まっていた時のことです。
いつも蛇の道から帰る時刻は朝4時なのですが、その日も家に忘れ物を取りに帰った時刻も4時頃だったと思うのです。
なのに、祖父には怒られませんでした。
「泊まりに行く」と一言も言っていないのに、普通に「おかえり」と言われて家に上げられました。
いつもなら塩をぶっかけられて日本酒を庭に置いておくのに・・・と。
違和感を感じた私は祖父に聞きました。
「なんで蛇の道に行った日と行ってない日がわかるの?」と。
すると祖父は、「カラスが付いて来てないから」と答えました。
そんなことは気にしたこともなかったので、少しだけゾッとしました。
ちなみに、「なぜその場所へ行ってはいけないか」の理由については、大人達は言いません。
そこは人に聞いても意見が様々なので省略しましたが、参考までに以下のことのようです。
・神聖な場所だから
・憑物を拾ってくるから
・狐に化かされるから
・カワウソに騙されるから
・蛇に喰われるから
・めちゃくちゃでかい影の化物に襲われるから
・天狗様が食事をする所だから(天狗なんて見たことはないですが)
統計は取っていないけれど、一番多かったのが「天狗様が食事をする所だから」というのが多かったように思います。
特に天狗の伝説などがあるような地域ではないのでなんとも言えませんが・・・。
夕方に道端の蛇をカラスが咥えて立ち去るのは何度か見たので、そういうのが関係しているのかな?と思ったり思わなかったり。
賭博を営んでいた先輩が信心深い人で、死んだ蛇の供養のために、蛇の道に入る前の大きな丸っこい岩に「毎日葉っぱを置いてから入る」と言っていましたから、蛇に喰われるというのはそれが関係しているのかもしれません。
狐やカワウソに化かされるというのは、町内のマイク放送で朝方に「迷子(ほぼ老人)の捜索を手伝え~」というようなことが過去に何度かあるのですが、2件経験したことがあって2件とも蛇の道で見つかっているので、そういうのが関係しているのかな?と思います。
その島に18年住んでいた私はといえば、狐もカワウソも見かけたことはありませんし、蛇に喰われたという人も聞きませんし、影の化物も見たことないですし、誰も憑物があると言われたこともないので、全部迷信ではないかな?と思っています。
ただ、「カラスが毎回付いて来ている」と聞いた時は怖かった覚えがあります。
(終)