「佐藤がどこ行ったか知らないか?」
これは、俺が中学生の時に塾へ通っていた時にあった不可解な体験談。
その塾は個人経営の小さな塾で、俺が通っていたA校舎と隣の市のB校舎の2つしかなかった。
中学3年の夏休みのこと、2泊3日の勉強合宿があり、長野県辺りで2つの校舎の3年全員が参加した。
1日目の昼頃に合宿所に着き、割り当てられた部屋に荷物置いて、昼ご飯を食べてから勉強が始まった。
成績毎にクラス分けされていたが、合宿では同じクラスにB校舎の生徒もいたり、先生も1日目はB校舎の人が受け持っていたから新鮮だったのを覚えている。
その同じクラスに、佐藤(仮名)という少し暗い生徒がいた。
気になって観察していると、休み時間も座っているだけで、授業の始まりの出席確認の時は返事もしない。
ただ、B校舎の生徒や先生が特に反応していなかったので、佐藤はそういう奴として受け入れられているんだ、と俺は納得していた。
しかし、夕ご飯後の最初の授業の出席確認時、佐藤がいなかった。
先生は「佐藤がどこ行ったか知らないか?」と聞いてくるが、みんな「知らない」、「見てない」と答える。
すると先生が「それなら同じ部屋の生徒がいたら部屋を見て来てくれ」と言ったのだが、なぜか同じ部屋と名乗り出る生徒はいなかった。
俺は、佐藤はB校舎でいじめられているのか?と思った。
結局、その時間に授業のない他の先生に佐藤の捜索を頼み、普通に授業は進んだ。
そして、休み時間を挟んでその日の最後の授業でのこと。
なかなか先生が現れず、始まらなかった。
暇を持て余して友達と喋っていると、先生が慌てて部屋に入って来て、「佐藤知らないか?」と聞く。
しかし、誰もが「どこ行ったか知らない」、「見てない」と答える。
先生「そうじゃない。佐藤という生徒のこと知らないか?」
A校舎生徒「知らない」
B校舎生徒「知らない」
A校舎生徒「え?B校舎の生徒じゃないの?」
B校舎生徒「いやいや、A校舎の奴じゃないの?イジメでもしてるの?」
次の日、気になっていた俺たちは先生に佐藤のことを聞いたが、何も答えてくれなかった。
そうしてそのまま佐藤がいないまま合宿は終わった。
~ 以下、後日談に続く ~
後日談
合宿後しばらくして、先生に聞いた話はこうだった。
佐藤という生徒は、A校舎にもB校舎にも存在していなかった。
なのに、なぜか合宿時のクラスの名簿には載っていて、佐藤という生徒が実際にいたのを他の生徒も先生も見ている。
ただ、部屋割りの名簿には佐藤の名前は載っていなかった。
A校舎B校舎の生徒が互いに、別の校舎の生徒だと思っていたらしい。
この出来事は今でも謎のままになっている。
(終)