血の匂いと共有された幻覚
学生時代、私は地元の小さなタレント事務所に所属し、時々エキストラ的な仕事をして小遣いを稼いでいた。
これは、ある県の田舎に1泊2日のロケに行った時のこと。
予算が限られた仕事で、民宿では男性4人が8畳ほどの細長い和室に詰め込まれた。
仕事が夜遅くに終わったため、皆かなり疲れていた。
だべりもそこそこに、床の間がある方に頭を置き、奥の窓際からA、B、私、Cの順で布団を敷いて就寝した。
その後、私はすぐに眠りに落ちたが、非常に不気味な夢に苦しめられた。
夢の中では、真昼の川辺に着物を着た50人ほどの老若男女が集まり、ざわめいている。
まるで戦国時代のような雰囲気。
川辺には等身大のカカシが立てられており、そのカカシの頭には歌舞伎役者のように真っ白に化粧された女性の人形の頭が付いている。
次の瞬間、その人形の頭がごろっと落ちたので見ると、斬り口から生々しくのぞく赤い肉や白い骨。
それは人形ではなく、死んだ女性の本物の生首だった。
そして群衆の一人がその生首を拾い、再びカカシの竹串にグリグリと突き刺す…。
私は急激に吐き気をもよおして目を覚ますと、枕元には血の匂いが漂っていた。
床の間に目をやると、座布団が血に濡れており、その上には女性の生首があるかのように見えが、暗かったので確信は持てなかった。
悲鳴を上げて隣のBに抱きつくと、彼もすでに目を覚ましており、「わーっ、わーっ」と叫んでいる。
窓際のAも目を覚ましていたようで、「うおっ!」と飛び起き、戸口側のCはパニックになりながら襖にぶつかり、必死で立ち上がり、部屋の電気をつけてくれた。
明かりの下、私たちは床の間を見つめたが、血に濡れた座布団や女性の生首はなく、ただ『古びた壺がひとつ』置かれているだけだった。
しかし、血の匂いだけは相変わらず漂っている。
私たちは怖くて眠れず、窓を開け、電気をつけたまま床の間の反対側の壁に寄りかかり、「何が起きたのか?」を確認し合った。
すると、4人ともまったく同じ夢を見ていたことがわかった。
夢の中には、身長が130センチほどの奇形の小さな女性や、白い布製のランドセルを背負った男性などが登場し、私たちの記憶は細かい部分まで一致していた。
室内の血の匂いは次第に消えていったが、私は胸がムカムカして、明け方に吐いてしまった。
結局、私たちは2時間ほどしか眠れず、翌日のロケは皆、体調が最悪だった。
この出来事から10年以上が経ったが、冷静に振り返ると、同じような緊張感を共有した4人が、疲れから似たような夢を見て、集団的なヒステリー状態に陥り、幻覚や幻臭を共有したのかもしれない。
しかし、私にとっては人生で唯一のオカルト的な経験であり、未だに忘れられない不思議な記憶になっている。
(終)