10年おきにやってくる恐怖のお迎え
これは、職場にいるパートの金子さんの話。※名前は仮名
ちなみに金子さんは既婚女性。
金子さんが事務としてうちの会社にパートで来たのは4年くらい前。
元々正社員で15年ほど事務をやっていた人なので、仕事も慣れていて、すぐに職場に馴染んでくれた。
うちの会社は法人向けの品物を卸している卸問屋。
ある日、全然知らない中年男性が受付にボーっと立っていた。
用件を伺うと、「知り合いが勤めているんだけど会いたい」とのこと。
その知り合いという人の名前を聞いても言わないが、髪型や服装や特徴から金子さんだということがわかった。
男性は金子さんを待っている間も、心ここにあらずというか何というか、能面のような顔で待っていて、少し気味が悪いな・・・と思った。
だが、知り合いということでもあり、またセキュリティーに厳しい会社でもないので、すぐに金子さんを呼んであげた。
金子さん来ると、その男性はモジモジし出した。
それに目が全然笑っていなく、金子さんを見ても動こうとはしない。
表現するのは難しいが、目だけ座標が固定されている、という感じだろうか。
近くに居た怖いもの知らずの女性社員が金子さんに「お知り合いなんですよね?」と聞くと、「え、知り合い?え?え?お客様じゃないの?」と軽いパニックに。
それを見ていた男性は、「外であなたを見ました。行きませんか?」と言って、金子さんを連れ出そうとする。
周りもこの異様な雰囲気にこれはヤバイぞ・・・となり、女性たちが笑顔でやんわり男性から金子さんを引き離し、帰ってもらった。
その後、「何だったんですかねぇ、あの人?」という話をしていたら、次第に金子さんも落ち着き始め、「あ、もう10年経ったんだなぁ」と意味のわからないことを言った。
失礼ながら、金子さんははっきり言って普通のおばさん。
知らない男性が職場に押しかけるなんて、芸能人のような見た目でもない。
この一件は管理者の耳にも入ったらしく、ある時の飲み会の席で話題になった。
管理者も何かあった時の為にと思ったのだと思う。
金子さんに事情を聞いたところ、こうだった。
たまに見知らぬ男性にストーカーされることがあり、しかもなぜか10年おきで、誰かにストーカーされると10年はない。
年齢的に次の10年後は50代だから、次はないと思っている。
昔に付き合った男性とかでもない、とのことだった。
そして最近、私は金子さんと仲良くなり、夏場の暇な時に怪談話になったことがあった。
他の人は品物の納品などで忙しく、営業事務の人も出払って二人きりだったので、結構話が弾んだ。
会社の倉庫には出るとか、ホテルで金縛りにあった話とか。
そんな話をしている時、金子さんが「私、前に変な男の人が来たでしょ。あれ、ちょっと怖いんだよね」と言った。
そりゃ当然ストーカーなんか怖いわ、と思って聞いていたが、思ってる以上に洒落にならなかった。
曰く、知らない人からのストーカー被害が始まったのは16歳の時。
真夜中に窓を叩かれたり、玄関のドアノブをガチャガチャとされたり、玄関に黙って立たれたり。
26歳の時には、待ち伏せされたり、行く先々に現れたり。
36歳の時には、手紙や性的なものをポストに入れられたり、いたずら電話からの付きまといをされたり。
そして46歳で職場に押しかけられた、と。
実はこれらは前にも聞いていて、みんなが知っていることだった。
そういうこともあるかもね、怖いね、でも旦那さんがいるから安心だね、という話になっていた。
でも、この話には続きがあった。
「実は、あまりにも洒落にならなくて言わなかったけど、6歳の頃から始まってるのよ」
6歳の時、金子さんは友達と公園で遊んでいたら、4歳くらいの男の子を連れた中年男性が公園に入って来た。
その男性はとても普通で、男の子もその男性を父親のように懐いているし、金子さんも気にせず遊んでいた。
すると、その男性が急にフラフラと金子さんに近寄って来て、真顔で手を引っ張ってきた。
金子さんは最初、自分の息子と遊んで欲しくて連れて行かれるのだろうと思ったらしいが、男性は公園の外に出て行こうとする。
男の子は砂場で一人で遊んでいるのに、もう最初からそんな子は居ないかのように、真顔で能面のような顔で「行こうか、おいで」と言ってどこかに連れて行こうとするので、振り払って逃げたという。
時に子供というのは、本当に洒落にならないことは親に隠すことがある。
当時6歳だった金子さんも同じだったようで、怖すぎて親にも相談できなかったそう。
金子さんは続けてこう言う。
「でね、男の人は年齢も顔も体型も全員バラバラなんだけど、言うことが同じ。みんなどこかに連れて行こうとするんだよね。『行こう』って言うからすぐにわかる。それに顔は違っても表情が同じで、明らかに正気じゃないし」
私も見た。
まるで目だけが座標固定されてしまったように動かなくて、能面のような顔。
「36歳の時の電話なんか、留守電にずっと『行きましょう、行きましょう、行きましょう』しか入ってなかったしね」
金子さんは今では、来た人の顔を見るとすぐにわかるらしい。
全員違う男性なのに、みんな同じ顔に見えるという。
まさか職場に来られるとは思わなかったので不意打ちだったそうだが、「行きませんか?」と言われた時点で10年おきのアレか・・・とすぐに気づいたという。
毎回言われる言葉は「行こう」らしくて、どこに連れて行こうとしているのだろうか。
ただ、私は金子さんが56歳の時にも、もしかすれば66歳の時にも10年おきのお迎えはあるのではないかと思っている。
金子さんが連れて逝かれるまで。
(終)