扉の隙間から覗いていた両目の怪
これは、10年ほど前の体験話。
前に住んでいた家は、ちょっと京都では有名な料亭。
もう店は畳んでしまったけれど、100年近くやっていたこともあってか怪談話なんてのは沢山あり、親からよく聞かされていた。
例えば、「もう閉鎖したお風呂に落ち武者が出る」だとか、「夜中にお座敷で白い着物の仲居さんが働いていたり」とか。
親は時々それらを見ていたらしいけれど、私は全く見たことがなくて、怖いと思う反面、正直なところ信じていなかった。
でも一度だけ、私も少し怖い体験をしたことがある。
当時の我が家は、お店を含んだ敷地内に自宅があった。
自宅はお客様から見えないように木の塀で隠してあり、塀の横の石畳を通ってお客様は奥手にあるお店に入る。
その木の塀には扉が埋め込んであり、家族はそこからさらに自宅の玄関を開けて家に入っていた。
ある日、家から出ようと玄関を出て木の扉に手をかけた時、少し開いた隙間から両目が覗いていて、私は思わず大絶叫してしまった。
その直後、扉の反対側から母が血相を変えて飛び込んできた。
なので、私は「なぁ~んだ、勘違いか~」と笑い、大声を出したことを少し怒られてから、何事もなくいつも通りの日常に。
ただ次の日、友達にその話をしていた時に、あることに気がついてからゾッとした。
向こうから覗いていた目の位置が、私と真っ直ぐに見つめ合っていたから…。
母と私は身長10センチほども違うのに。
それに、覗いていたのは両目で、扉の細い隙間から下記のように縦に並んでいた。
<◎><◎>
ではなくて…
∧
◎
∨
∧
◎
∨
未だにあれは誰の目だったのかわからないし、もし自分で扉を開けていたらどうなっていたんだろう、と思うことがある。
当時はさすがに、その時から少しの間、扉を開けるのを躊躇った。
「開けたら何かいるんじゃないか…」と。
(終)