田んぼの水面をスイスイと横切る妙なモノ
これは、得体の知れないモノにまつわる話。
山間の村に祖父の家があり、そこの田んぼで『妙なモノ』を見たことがある。
季節は夏真っ盛りで、村に唯一通っている国道に逃げ水が出来るほど暑かった。
当時小学生だった俺は、妹と遊んだ後に田んぼの手前の畦道に座り、駄菓子屋で買ったチューペットを食べていた。
特に理由もなく目の前をぼーっと眺めていると、田んぼから道を一本挟んだ向こう側の田んぼで何かが動いているのが見えた。
田んぼには水が張っていて、勝手にそこに入ると叱られる。
なので、農家のおっさんかな?と思った。
でもよく見ると違った。
100メートルほど離れていたからハッキリとは見えなかったが、ソレを例えるなら、顔も手も足も段ボールのように四角かった。
顔に大きな段ボールを被り、手足に小さな段ボールを付けている感じだ。
そんなモノが田んぼの中で動いている。
「なんじゃあれ!?」
そう口に出して、もっと近くで見ようと近付こうとした時、ばあちゃんが呼びに来た。
「スイカ切ったけん、帰っておいで」と。
声をかけられたので、ばあちゃんの方に振り返り、もう一度向こうの田んぼを見た時にはソイツは消えていた。
その後、スイカを食べながらみんなに話したのだが、誰にも信じてもらえず…。
妹も見てないようだった。
ただ不思議なのは、水を張っていた田んぼなのに足が見えていたこと。
アメンボのように浮いて見えたのだ。
暑かったこともあり、普通に考えれば蜃気楼か何かだとは思うのだが、あんな形をした蜃気楼なんて見たことも聞いたこともない。
そいつはクネクネのような動きではなく、スイスイと田んぼの水面を横切っていた。
(終)