子供の頃に行った夏祭りでの怪異体験

花火

 

これは、子供の頃に行った夏祭りでの怪異な体験話。

 

親戚や祖父母と5人ほどで花火を見に行ったのだが、その時の状況が“何か変”だった。

 

お祭りでは御神輿の周りを囲むようにして、お面を被った人々が盆踊りをしていた。

 

僕たちは事前に、一番良い場所にシートを敷いて確保しておいた。

 

そこで弁当を食べながら、花火の始まりを待機していた。

 

だけども、待てども待てども一向に花火は打ち上げられない。

 

何故だかわからないが、「たーまやー、かーぎやー」と周囲から掛け声と拍手は聞こえてきているのに。

 

僕は夜空を見上げるのをやめ、怪訝そうな顔で周囲を見渡すと、やはり親戚たちもワイワイと喜んでいる。

 

だが、空に視線が向いているわけではなかった。

 

僕も大人たちの視線の先に目を向けてみた。

 

隣山の丘に何か建物があった。

 

お寺のようにも見える。

 

そのお寺を凝視していると、急に窓の所で提灯みたいな明りが点いた。

 

そしてその明かりが放り投げられ、宙を舞いながら落ちていった。

 

まるで人魂のように。

 

その人魂が消えるその瞬間、「たーまやー」とあの掛け声がした。

 

拍手も。

 

その変わり映えしない不思議な光景が何度か繰り返された後にお祭りは終わったらしく、人々は帰っていった。

 

屋台や盆踊りのやぐらの提灯が消えて真っ暗になったその場所で、僕はまだ納得できず、帰り支度をしている親戚をよそに、寺と周囲の闇を観察し続けてそこで見てしまった。

 

お祭りに参加していた人々が浴衣を脱いでいた。

 

だが、顕(あらわ)になったのは裸ではなかった。

 

藁人形。

 

浴衣を脱いで仮面を取り、人間ではなくなった藁人形が手足を縛っている紐を次々と解いていき、その場に倒れてただの散乱した藁になっていく。

 

僕は心臓が爆発するかと思うくらいに動転してしまった。

 

あのお寺を見るとそれはもうお寺ではなく、単なる丘の上にある大きな岩だった。

 

気がつくと、誰も居なくなってしまっていた。

 

親戚もおらず、藁だけが散乱している広場で、たった一人で居た。

 

次の年もお祭りはあったが、一年前とは違い普通の花火が上がり、藁人形もお寺も目にしなかった。

 

親戚に問い質しても、「だって去年はどこかに勝手に遊びに行ってたでしょ?」と、僕がお祭り自体に参加していないと言われた。

 

あれが何だったのかは今もわからない。

 

(終)

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