初めて見る滝での不思議な体験
これは、25年ほど前の体験話。
ちなみにアラフォーの俺の、唯一の不思議な体験でもある。
その日、俺は親父と連れ立って渓流釣りに出かけた。
自宅から車で十数キロほど登った山間にある川から釣り始めた。
2~3時間釣りながら川に沿って登っていると、昼過ぎ頃に滝に出た。
落差10メートルはありそうな、大きな滝。
わりとこの辺りは釣り歩いているが初めて見る滝だったので、「こんな所があったのか!」と、親父と二人して驚いた。
滝つぼを見ると、尺越えの魚影がチラチラと見え、やる気満々で釣り始めたが全然釣れない…。
辺りが暗くなり始めるまでの3時間ほど粘ってはみたが、結局はボウズ。※ボウズ=魚が1匹も釣れなかったこと
ただその周りには、空き缶やらペットボトル、ポリ袋などのゴミがたくさん落ちていた。
なので、俺らが何も知らなかっただけで結構人が入っている場所なのかとその日は諦め、折角の綺麗な滝なのにゴミが目障りだった為、拾い集めて綺麗にしてから帰ることにした。
川を釣り登っていたので現在位置はハッキリしなかったが、谷の底にある滝で、上の方から車の音がしていた。
結構な斜面だったが壁面をよじ登ってみると、すぐに舗装された道に出た。
「こんなに道路に近い滝ならそりゃぁ人も入るわなぁ」と親父と話し、時計を見ると午後の2時頃。
「あれ?結構釣っていたはずなのに、意外と時間が経っていないな?」
親父と二人して首を捻ったが、釣り登るのは体力を使うし、鬱蒼とした森の中だったので暗くなるのも早いので、そのせいで時間の感覚が狂ったのだろうとあまり気にせず家路についた。
次の週、あの尺越えの魚影が忘れられない俺と親父は、リベンジに出かけた。
だが、滝が発見できない。
スマホどころかカーナビもまだ普及し始めたばかりの時代だったので、当然うちの車には付いておらず、うろ覚えの道を行ったり来たり。
農作業中の爺さんや婆さんに滝のことを尋ねてみるも、「この辺に滝なんてないぞ」と言われる。
あんなに大きくて、かつ道路に近い滝なのに。
「そんなアホな!?」と思いつつも探すが、結局は見つからず、その日は別の場所で釣りをして帰った。
さらに次の週、やっぱりあの滝で釣りをしたい俺は、また滝を探しに行こうと親父に声をかけたが…。
「滝?何のことだ?」
「はあ?」となる俺。
親父は滝のことを忘れていた。
先々週の釣りで行った滝だと説明するが、首を捻るばかりで思い出せない様子。
訝し気な親父を説得して滝を探しに行くが、やっぱり見つからず。
その後も何度か近くで釣りをしたのだが、未だあの滝は見つけられない。
もしかすると、滝で釣りをしたこと自体が夢だったのかもしれない、と思うようにもなった。
あの時に拾ったゴミでも残っていれば証拠にでもなったのだが、なにせただのゴミ、普通に捨ててしまっている。
当時の俺は、俺もそのうち滝のことを忘れるのかな?と思っていたのだが、25年も経った今でも、こうして鮮明に覚えている。
本当にあの滝は何だったのだろう。
時空の歪みだったのか、掃除をしてくれたお礼にゆっくり遊んでいけという何者かの意思か、はたまた狸にでも化かされたのか…。
(終)