もしも山で自分の名前を呼ばれたら
これは、私の知り合いが山で体験した話。
仕事で山林の手入れをしていた時のこと。
どこからか微かな、人を呼ぶ声が聞こえてきた。
耳を澄ませると、これがどうやら“彼の名を呼んでいる”らしい。
「誰だろう?」
返事をしようとしたが、一緒に作業をしていた先輩が止める。
「あれは、『お呼びさん』っていう輩だ。大抵は山中で、場違いな音や声が聞こえるっていうだけの現象なんだが。
これが人の名を呼ばわる時だけは注意しなくちゃいけない。うっかり返事をすると、連れて行かれてしまうって言われてるからな」
「…え?連れて行かれるって、何処にですか?」
「それは俺も知らん。興味あるなら返事してみるか?」
もちろん、興味はあっても気味が悪い。
結局、お呼びさんは無視して、その日の仕事を終えたのだという。
(終)
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