ファミレスのトイレから始まった異変
これは、友人から聞いた奇妙な体験話。
ある日、友人とその家族は、夕ご飯に近所のファミレスに行った。
食べ終わる頃、友人の妹がトイレに。
ちなみに、このファミレスのトイレには特に噂や怖い謂れはない。
妹がトイレに入った時、他には誰もいなかった。
まず洗面所で手を洗おうと、鏡の前に立つ。
右下にはゴミが半分以上入った、フタのない屑入れがあった。
ふと、その屑入れが気になった。
なぜなら、何か変な物が見えたから。
最初はわからなかったが、鏡越しにジーっと見てみると、紙屑などに混じって肌色のものが見えた。
何度否定的に見ても、それは人の肌、それも肩の部分に違いなかった。
そこで止めておけばいいものを、妹は我慢できなかったのか、一人でそのまま個室に入って用を足す。
剛の者である。
最終的に、お店の人に気がついてもらうまで、ずっと個室のドアが開かず閉じ込められていたという。
その間、妹がどんな気持ちだったのかは聞かなかったが、私だったら泣き出しているかもしれない。
その日から、友人の家で奇妙なことが起こり始めた。
深夜、誰もいないはずの部屋での足音や、台所で水が出る音、コップが鳴る音などが聞こえてくる。
どうやらあのファミレスで、妹が何かを連れて帰って来てしまったらしい。
そのしばらく後、友人は私に会った時にこんな話をした。
「最近、こんな夢を見たんだけど…」
真偽はわからないが、暗示的な夢をよく見るという。
これまでも私の部屋に初めて来た時に、「あっ、この部屋、夢で見た。あっちのカーテンの所に人形ない?ほら!」ということがあった。
ともあれ、友人が見た夢はこういうものだった。
夢の中で友人は自分の部屋にいる。
すると突然、部屋の扉を開けて見も知らぬ男が入って来た。
ビックリした友人は「誰?」と、その男に尋ねる。
しかし男は繰り返し、「ここに住まわせてもらいます」としか言わない。
友人は気持ち悪くなった。
その時、扉の付近に妹がいることに気がつき、「ねえ、この人は誰?」と聞いた。
だが、妹も一つのセリフを繰り返すだけ。
「その人、自殺だって」
まったく訳がわからない友人に構わず、男はこの部屋に住む気満々で荷物を運び込んでいく。
その荷物を見た友人は恐怖した。
幾つものダンボール全てに入っていたのは、半透明のゴミ袋に包まれた淀んだ汚水だったから。
そこで目が覚めた。
また、こんな話をし始めた。
「このあいだ、雨が降った時にね…」
夕方、雨が降り出した。
もう辺りは薄暗い。
妹がまだ学校から帰って来ないのを心配した母が、携帯に電話をした。
「あ、もしもし」
電話に出た妹は、今ちょうど下校途中だった。
傘がなくて大丈夫?などと話していると、妹の声の後ろから、しきりに彼女に話しかける声が聞こえてくる。
誰か友達と一緒かな?と思った母は、安心して電話を切った。
もちろんお約束通り、その時の妹は一人で下校していて、周りには誰もいなかったという。
さすがにヤバいとなり、家族総出でお寺へお祓いに行き、それからは不自然なことが起こらなくなった。
ファミレスのトイレから始まった数々の異変。
そんな話を聞いた私は、あのファミレスには絶対に行かないと強く思うのであった。
(終)