私を呼びに来た白い服を着た存在
これは、去年初めての出産した時の体験話。
私が入院していた病院は母子別室で、赤ちゃんは新生児室にいた。
私は6人部屋の、入り口から入った一番手前のベッドだった。
この病院の方針は3時間毎の授乳ではなく、赤ちゃんが泣いたらその都度ベッドの脇のスピーカーから呼び出しがかかるか、人がたくさんいる昼間などは看護師さんが直接呼びに来てくれたりして、新生児室に出向いて授乳したりオムツを替えたりしていた。
入院して4日目の深夜のこと。
その夜、私は眠りが浅く、ウトウトしては目が覚めるのを繰り返していた。
そうこうしているうちに、誰かにトントンと身体を叩かれ、目が覚めた。
顔を上げると、白い服を着ている人が私に「お願いします」と言ったので、私はまだ半分寝ぼけながらも、うちの子が泣いているから授乳お願いしますと呼びに来てくれたんだと思い、「あっ、はい、すみません、すぐ行きます」と言って、新生児室に向かった。
すると、そこにいた看護師さんが、「あれ?神田さん、どうかされました?」と言う。※仮名
私は、「うちの子、泣いてましたか?今、別の看護師さんに呼ばれて来たんですけど…」と言うと、「え?呼んでないですよ?」と怪訝な顔をされた。
そう言われて逆に私の方が何が何やらという感じになり、「そうなんですか?確かにトントンって叩いて起こされて、『お願いします』って言われたんですけど?」と言った。
看護婦さんも少し顔を引きつらせながら、「でも今夜は私一人で新生児室の担当ですし、もしお母さんを呼ぶ時も、赤ちゃんたちを残して部屋を空けられないから極力スピーカーでコールしていますよ。それに他のスタッフにも今日はまだ頼んでないですよ?神田さん、疲れているんでしょうね。気を張り詰めないでリラックスしてくださいね。泣いたらちゃんとコールしますから」と言われてしまい…。
現に、うちの子は泣くどころか爆睡中だったし、やっぱり呼ばれてないんだと思い、腑に落ちない顔で首を傾げながら部屋へ戻った。
でも、私が話した看護師さんの表情は明らかに引きつっていて、絶対にこんなことが前にもあったんだろうな、とは思った。
あの看護師さんは、きっと「またか…」と思ったはず。
私を呼びに来たあの白い服を着た存在は何だったのか?
普段の私は、いわゆる霊感のようものは全くない。
でも、妊婦や出産直後の人はそういう感覚が敏感になっていて、見てしまう人も多いとか。
確かに体をトントンとされたはずなんだけれど。
それに、「お願いします」という声も、今でもはっきりと覚えているし。
今から思えば、あの白い存在に起こされた後、その存在が部屋から出て行くのを見ていない気がする。
一番入り口に近い手前のベッドだったので、入り口に背中を向けていない限り、出て行くのところは見えるはずなんだけれど。
ああ、怖い怖い。
(終)