妖怪『すーっことん』が棲む家
これは、小さい頃に祖父から聞いた話。
旅人が山中の家に一夜の宿を乞うた。
泊めるのは構わないが、近隣の者に不幸があって夜は家を空けなければならない主人。
夜更けまでには帰って来るので留守を預かってほしいという。
旅人は泊めてもらえるのならば、と頼みを受けた。
主人が出かけてしばらく、旅人は囲炉裏端に座っていたが、奥の部屋で「すーっ、ことん」と音がした。
襖を引く音だったが、奥の部屋どころか家には旅人しかいない。
しばらくすると、また「すーっ、ことん」。
またしばらくすると「すーっ、ことん」。
恐る恐る奥の部屋を覗いても、やはり誰もいない。
音はその後も延々と続く。
旅人は怖くなったが、夜の山中に飛び出すこともできず、囲炉裏端で布団を被って震えていた。
どれほど経ったか、主人が帰って来た。
旅人が主人の留守にあったことを話すと、主人は笑って言った。
「そりゃあ『すーっことん』です。音がするだけで何も悪さはしませんよ」
それにしても、今思うとなんだかマヌケな名前だ。
(終)
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