俺を一人にするとタヌキが来る
これは、じいちゃんが体調を崩して入院した時の話。
検査の結果、肺に影があり、癌の可能性が高いけれど血液の数値は悪くなく、内視鏡でも癌細胞は見つからなかった。
しかし、じいちゃんはみるみる痩せていき、食欲も落ちて症状は癌そのものだった。
「分かったよ。他のを探すよ」
そして呼吸困難で個室に移されたある晩のこと。
看病していると、じいちゃんがうわ言のように「タヌキ・・・俺を一人にするとタヌキが来る・・・」と言い出した。
その時は、「ああ、強い薬のせいだな」と思ったけれど、じいちゃんを落ち着かせようと思った私は「タヌキのバカ。どっかいけ」と言ってみた。
翌朝、私は家に帰り、その日の晩は病院には行かなかった。
けれど、変な夢を見た。
夢の中で誰かに話しかけられた。
「なんで分かった?俺がいるのを」と。
何故か分からないけれど私は普通にその相手と話をしていて、「じいちゃんに関わるな!」と夢の中の相手に言っていた。
すると相手は、「分かったよ。他のを探すよ」と言って消えていった。
その夢は看病疲れのせいで見たのだろう、と今でも思っている。
それからじいちゃんは回復して、医者もビックリしていた。
老人がここまで回復するのはごく稀なケースらしい。
あれだけ検査しても何も分からなかったのに、癌の可能性が極めて低くなり、肺にあった影も薄くなっていた。
もしかすると夢の中での相手はタヌキではなかったような気もするけれど、私は心の中で「ありがとう、タヌキ」と言ってみた。
でも、学生のいとこが白血病になってしまった。
(終)