ポックリ逝った父の四十九日の前夜
これは、私が成人式を終えた年のこと。
高校を卒業してすぐに一人暮らしを始めて働いていた私は、ふと実家が恋しくなり、その週末は実家へ帰ることにした。
週末はいつも昼過ぎまで寝ている姉が珍しく朝から起きていて、久し振りに家族全員が揃ってお昼ご飯を食べた土曜日。
リビングで昼寝をしていた父は、そのまま目を覚ますことなくポックリ逝った。
心筋梗塞だった。
突然のことに母は呆然としてしまい、葬儀屋とのやり取りや、役所や銀行などの届け出は、姉と私で走り回った。
私自身、何かに没頭しないとヘナヘナになると内心思っていたからか、お通夜から初七日までとにかく走り回って、悲しいという感情が無くなったように涙ひとつ流れなかった。
仏壇の父の遺影を見ても実感が湧かず、姉と「もうちょっと痩せていた頃の写真を使った方が良かったかな」と、笑いながら話していたくらい。
そして四十九日を控えた日の前夜、私の夢に父が出てきた。
母と姉と私はお昼ご飯を食べ終えて、仏壇のある和室でゴロゴロしていたところ、「ただいまー」と父がいつものように帰ってきた。
夢の中の仏壇にも父の遺影は飾ってあるのになぁと思いつつ、私は父が帰ってきたことがとても嬉しくて喜んだ。
父がお腹が空いたと言うので、私が残した冷食のエビピラフがあるよと言ったら嫌がられた。
それに、私たちは真夏の格好なのに、なぜか父はセーターを着ていた。
母からプレゼントされたセーターだと、そういえば生前の父に聞いたことがある。
みんなで他愛ない話をしていたけれど、日が傾き始めた頃、父が立ち上がって「それじゃ、そろそろ行くわ」と、玄関に向かって歩き出した。
直感的に、もう二度と父に会えなくなると感じた私は大泣きで父にすがり、「イヤだ!行かないで!行かないで!」と叫び続けた。
母と姉、当の父も少し困った顔をしながら私を見ている。
「もう行かないとダメなんだ」
父に言われ、あぁ…本当にこれでお別れなんだ…と感じたところで目が覚めた。
夢から覚めてからも、わんわん泣きに泣いた。
父が亡くなって初めて泣いた。
顔を見に来てくれたのかなと思ったけれど、きっと父はもう私の夢にも出てきてくれないんだなぁと思うと、寂しくて仕方なかった。
なのに、なぜか二度と父には会えないと強く感じたにもかかわらず、年に一回くらい夢に父が登場する。
一緒にバッティングセンターへ行ったり、新作のゲームの話をしたり。
私が落ち込んだ時に現れるので、単に私の願望が出てきているだけなのだろうとは思うけれど、“あの時の夢だけは父が本当に来てくれたんじゃないかな”と信じている。
それなのに、食べ残しの冷食エビピラフを勧めるわ、お気に入りのセーターを引っ張って袖をビローンとさせるわ、親不孝者の娘でごめんなさい、お父さん。
沢山ありがとう。
(終)