とあるビジネスホテル上層部屋の窓の怪

窓の鍵

 

これは、もう三十年も前のことになる。

 

その日、私は大学受験のために東京へ出てきた。

 

宿泊先は池袋にあるビジネスホテルのかなり上層の部屋。

 

その部屋は、転落事故あるいは自殺防止のためででもあろうか、窓は嵌めきりのガラス窓で開かないようになっていた。

 

しかしどうしたことか、その開かない窓の窓枠に、とってつけたように錠が付いている。

 

よく目にする錠で、耳タブのような形の金属片が180度回転するようになっている、あれだ。

 

「変なの」とは思ったが、翌日に入試を控えていたため、あまり気にせず一晩を過ごし、快眠のうえで臨んだ試験もまずまず上出来に終わった。

 

東京観光のためにもう一泊した後、チェックアウトの際、宿泊中に何度か言葉を交わしていた若いホテルマンに錠のことを尋ねてみた。

 

「ああ、あれ」

 

彼は、特にどうということもない様子で答えた。

 

「付けとかないとね、誰かが覗くんです。で、窓を開けようとするの。見えるところに付けとかないと。まっ、開けようとしても開かないから大丈夫なんですけどね。やっぱ、気分悪いでしょ、そんなことされると」

 

誰かが覗き、開けようとする。

 

地上、何十メートルだかの高層の窓を、外側から開けようとする誰か?

 

上京して既に三十年が経つが、今でもあの辺りを通ると少し薄ら寒い。

 

(終)

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