境内の隅を這っている肉の塊
これは、友人から聞いた話。
彼のツレに、いわゆる『みえる人』がいるのだという。
二人で山奥の神社へ出掛けた折に、そのツレが境内の一角をじっと見つめたまま動かなくなった。
「何か見えるか?」
そう尋ねたところ、ツレは短く答えた。
「肉がいる」
何だそれはと問うてみたが、「肉は肉だ」と、それしか答えない。
しつこく問いただすと、桜色をした肉の塊が境内の隅を這っているのだという。
引きつった友人の顔を見て、ツレは息をひとつ吐いてから続けた。
「大丈夫、悪いモノじゃないと思う。時々、カラスや犬がかぶり付いてるから毒もないんじゃないかな。古い神社にはわりといるんだ、あの肉。
初詣の後なんか、明らかにブクブクと大きく育ってる。ひょっとしたら、人が吐き出していった願い事や悩み事を喰ってるのかもね。
それを鳥や獣がさらに喰らう。いわゆる浄化ってやつなのかな、そう思うよ」
それからというもの、彼は悩み事ができるとその神社へ参拝するようになった。
柏手を打ってしばらくすると、不思議に頭がスッキリとするのだそうだ。
「ああいった話を聞いた後だから、単に思い込みなのかもしれないけど。でも言われてみれば、確かにあの社、妙にカラスが多いんだよな」
(終)