吹雪の山中で目にした有り得ないもの
これは、知り合いの話。
ある時、地元の山で遭難者が出た。
単独で山に入っていて、突然の大吹雪で山を下りられなくなったものらしい。
天候等の状況からして生存は厳しいと思われたが、二日後に無事保護された。
どうやって寒さを凌いだのか尋ねると、顔をしかめて答えたくない様子を見せる。
しつこく問い質したところ、おかしなことを言い出した。
「吹雪の中で彷徨っていると、唐突に“有り得ないもの”に出くわしたんです。赤い布団が雪の上にポッコリと盛り上がっている、そんな物体が目の前に。
コタツでした。
布団を捲ると、中はほっこりと暖かかったんです。だから必死で中に潜り込んで雪を避けたんですが。いつの間にか、つい寝てしまって・・・。
目が覚めると吹雪は止んでました。這い出してから下ってるところを皆さんに助けて頂いたと、そういう訳で。信じてもらえるとは思ってませんけど」
皆が何とも言えない顔をしていると、最年長の山男がこう漏らした。
「コタツで良かったなぁ。カマクラだったら山に取られてたぞ」
結局、コタツの話は聞かなかったことにして、この件は幕を下ろしたのだという。
(終)