彼女がくれた身体の一部
これは、ある杣人の話。
彼はよく山奥の炭焼き場に一人滞在して炭焼きをしているという。
「大変ですね。一人で山に籠もっているのは寂しいでしょう?」
私がそう言うと、彼は笑った。
「いや、時々はお客さんもあるから、そうは寂しくもない。まぁ訛りが酷くて、意思疎通するのが大変だけどな。酒がかなり好きなようで、一緒に飲むと結構楽しいぞ」
そう言うと、指先ほどの大きさをした物を懐中から取り出した。
薄い乳白色で、虹色に鈍く光っている。
「綺麗ですね。それって一体何です?」
「彼女の身体の一部だよ。この前くれたんだ」
「彼女?ははぁ、付け爪か何かですか」
「いや、鱗」
思わず、マジマジと顔を見てしまう。
彼はニヤニヤ笑うと「嘘だよ」と続け、あっという間にそれを仕舞った。
詳しく見せてくれと頼んだが、丁寧に断られてしまった。
果たして担がれたのかどうか、それ以上は私もわざわざ確認はしなかった。
今でも彼は炭焼きを続けている。
そして山に入る時は、酒を必ず多目に携えて行くそうだ。
(終)
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