「昔馴染みだ、気にするな」
これは、知り合いの体験話。
まだ幼い彼が、実家に里帰りをしていた時のこと。
父親と里山を散歩していると、川に小さな橋が架かっている場所に出た。
街の川とは違い、魚の影が濃いことに興奮して、川面を一生懸命に覗き込んでいた。
そんな彼の様子を、父親はすぐ背後から見守っていた。
…と、いきなり父親は「おーい!」と大声を上げ、上流の方へ手を振り始める。
目を向けると、誰かが川から上半身を出していて、やはりこちらへ手を振っていた。
同い年くらいの子供に見えたが、頭も腕も真っ黒で、表情などは見えない。
ただ赤い口だけが、パカリと開いているのが見てとれた。
彼が目を凝らそうとすると、すぐにソイツは水の中に姿を消したという。
「今の誰?どこの子なの?」
そう尋ねると父親は、「昔馴染みだ、気にするな」とだけ口にした。
実家へ帰ってから祖母にこの話をすると、「あの子はよく河童と遊んでいたからねぇ」と、懐かしそうに言われたそうな。
(終)
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