幼少期のこけしと妖精の不思議な体験
これは、『こけし』にまつわる怖い体験話。
俺が生まれた日に作られたこけしを、親が出産祝いで貰っていた。
だが、こけしというものは、元々は水子供養のものだと聞いたことがある。
※参考・・・こけしの由来は諸説ある。有力な説として、「子宝を授かること」や「子供の健康な成長」を願って縁起物として作られた、とも考えられている。その一方で、こけしは「子を消す」の意味で、水子供養や間引き子の供養を目的としている、という説もある。
親いわく、地元はこけしが名産と言われているから貰ったとか。
ただ俺は、そのこけしが苦手だった。
なんというか、日本人形のような佇まいで、ちょこんといつもいるから…。
口では怖いだの嫌だの言って物置に隔離していたが、幼少期の記憶にあるこけしは、いつも俺と遊んでいる。
その中でも、一番鮮明に覚えていることがある。
母は弟を妊娠のために入院中、父は仕事で、俺は幼稚園から帰って来ては家で留守番をしていた。
暇だったので、TVでアニマックスを見ていたと思う。
そのうち、2階の部屋のどれかのドアが開く音がした。
一瞬怖さを感じるも、当時は幼すぎてそのまま放置して1人で遊んでいた。
すると、今度は「コトッ」と、一定時間ごと鳴るようになった。
ドアの音のこともあり、見に行くことにした。
うちは吹き抜けで2階から1階のリビングが見える構造だったが、2階の物置部屋前の手すりのところに、こけしがいた。
日も沈みかけていたので徒歩10分ほどの婆ちゃんの家に行くわけにもいかず、怖がりつつ見なかったことにした。
それからも、一定の感覚で「コトッ、コトッ」と響いていた。
だんだんと音は大きくなる。
怖くて階段に背を向けるようにTVを見ていた俺は、振り向けずにいた。
その間も、「コトッ、コトッ」と響く音。
そして、意を決して振り向いた。
階段の踊り場に、こけしがいた。
硬直した俺は逃げることができず、見つめ合うしかなかった。
玄関にはハクビシンの剥製があったこともあり、夜は近づきたくなくて、そこからまったく動けなかった。
そして、どうしようもなくなった俺が取った行動が、「一緒に遊ぶ?」と聞くことだけ。
こけしは何もモーションは取らなかったが、俺はこけしを持ち上げて、一緒にトランスフォーマーで遊んだ。
…という、記憶。
後日談
時は進んで十数年。
ひょんなことからその筋の家系の奴と知り合った。
彼は代々大昔から、除霊や鎮魂、心霊現象の調査など、かなり珍しい仕事をしている。
彼は会うなり初対面の俺に、「なんで生きているんですか?」と聞いてきた。
それに対して俺の返答は、「やっぱりそう思う?」だった。
確かに運は悪い方で、昔から何かと不運に苛まれていたからそう答えたのかもしれないが。
その後に「俺の守護さん、どこかに行っちゃったんだよね」と続けた俺は、自分でもビックリした。
一方、彼は目が飛び出るんじゃないかというくらいに見開いていた。
それ以降、結構な頻度で遊んでいたが、ある日に彼から「先輩、霊とか飼っています?」と聞かれた。
もちろん俺は、「はあ?どういうこと?」と返した。
「先輩って結構霊に目をつけられやすいんですよ。何度かタチ悪いのが先輩を追っていましたし。
それで先輩を勝手に霊視したんですけどね、先輩、結構良い霊が近くにいるんですよ。
でも、誰かの守護さんってわけでもなさそうだし、浮遊霊にしては自我がハッキリしているし、地縛霊でもなさそうなので、その霊が先輩に懐いているって思ったんですよ」
訳がわからなかった。
そんな洒落怖みたいなセリフ、初めて生で聞いた。
確かに、変なモノが見えているという認識はあったが、家族含め知り合いから不思議ちゃん扱いされていた俺は、頭の問題だと思っていたことを話した。
すると、「だって先輩、霊感強いですもん」と。
いよいよ洒落怖みたいだなと思った時、あのこけしのことを思い出して、話してみた。
「あー、それかもしれないです。こけしって水子供養のものもあるので、その水子が先輩を弟だと思って懐いているんじゃないですか?帰ったら写メお願いします」
そう言われたので、帰ってからこけしの写メを送ったところ、「僕の勘違いでした。何もいないです」と。
それから色々あって変なモノに憑かれたりもしたが、こけしが十数年ぶりに落ち着かない感じがした。
小学校に上がってからは吹っ切れて部屋に置いていたが、後輩に出会ってからというもの、何か部屋の空気がよそよそしかった。
部屋の窓は北にあり、その窓からは神社が見え、川もあり、心霊番組などでよく言われる霊的な条件はそこそこ揃っていた。
なので、再度こけしを、今度は色んな角度から撮ってみて後輩に見せてみた。
すると、「あっ、すみません。僕の勘違いでした。います。しかも妖精化しています」と。
後輩いわく、精霊や妖精は幽霊から成るモノもいるとか。
そして俺は、その妖精さんに十数年ぶりに話しかけた。
「えーと、遊ぶ?」
次の瞬間、知り合いの妹から貰ったぬいぐるみが棚から落ちた。
それを拾っている間にプレステが起動する。
なんだか楽しくなってきていた。
後日、その妖精さんを後輩に見せると、「本当に先輩ってなんで生きていられるんですか?」と大笑いされた。
(終)