深夜に現れる足を撫でる手

仏花

 

何から話せばいのやらいいのやら…。

 

まだ気持ちが若干浮ついている。

 

深夜2時頃、不定期に足を撫でてくる『手』が現れる。

 

これは、そんな奇妙な体験談。

 

私には普段から好意にしてもらっているお寺さんがある。

 

前日に相談したい旨は伝えてあったので、スムーズに話を聞いてくれた。

 

その日、お寺に到着して奥さんが私を見るなり、座布団を“2つ”用意してくれた。

 

私は思わず、「えっ?常に憑いているの?」と戸惑った。

 

そんな心中で、改めて現れる手のことを詳しく話したところ…。

 

奥さん「明美ちゃん、半年ぐらい前に何処かの事故現場にお花を供えなかった?」(明美ちゃん=私の仮名)

 

私は絶句した。

 

そのことは親にも友達にも誰にも話していないのに、言い当てられて言葉を失った。

 

その事故現場は私がよく通る道にあり、噂では2年前に高校生が車に轢かれて亡くなった場所なんだとか。

 

事故当時頃に通った時は、確かに真新しい花束がお供えしてあったのを覚えている。

 

でも今ではドライフラワーを通り越したような花と、破けた包装紙がそのまま残っている状態だった。

 

たぶん事故当時に献花されて以来、誰もここに来ていないのだと思った。

 

そんな状態のまま誰にも見向きもされないで放置されているのが、何となくだけどずっと気になっていた。

 

まったく知らない他人だけど。

 

そして半年前ぐらいのこと。(事故から1年半後)

 

私は階段から足を滑らせて捻挫してしまい、接骨院に通院する為にその道を通っていた。

 

そんな時、「仏壇の花が萎れてるから新しいのを買ってきて」と、母に頼まれた日があった。

 

なので、その日は接骨院の帰りに花屋へ寄ってからその道を通った。

 

そしてあの事故現場を通りかかった時、思いつきで仏花を3本程度お裾分け感覚でお供えし、手を合わせた。(周りに人がいなかったので見られることもないだろう、ということもあったけれど)

 

たぶんその時に憑いて来たのかな、と奥さんが教えてくれた。

 

「花を供えて憑かれるなんて…。余計なことをしちゃったんですかね?」

 

奥さん「うーん…違うみたいよ。この子、逆にそれは嬉しかったみたいね」

 

「えっ?じゃあ、どうして憑いて来ちゃったんですか?」

 

私は軽く混乱した。

 

奥さんによると、憑いて来てしまったのは以下の通りだった。

 

・憑いているのは高校生ぐらいの子

・死んだことに未だ戸惑い、認めたくない、迷っている状態

・ちゃんとした供養をされていないような

・私とはたまたま波長が合った

 

奥さん「供養のことやお花のことも考えると、この子は家族とあまり良い仲ではなかったのではないかねぇ」

 

「だから枯れたお花のままだったわけですか」

 

奥さん「途方に暮れたような状態だったのかな。そんな時に明美ちゃんがお花を添えて手を合わせてくれたから助けを求めてきたのかもね」

 

とりあえずは悪いモノに憑かれたのではないという安心と同時に、なんだかとても悲しくなりました。

 

私の足を撫でてくる理由は、助けを求めているということもあるかもしれないけれど、怪我をしている箇所を撫でる行為はお花への感謝なのかな、とも。

 

足を捻挫していたことを奥さんに言ったところ、満面の笑みで「治り、早くなかった?」と。

 

確かに、見込みよりも早く松葉杖が必要なくなった。

 

話を終えた後はお堂に通され、座布団に座って目を閉じて合掌した状態で、お坊さんがお経を唱えてくれた。

 

時々、奥さんが背中をさすってくれていた。

 

ただ、お坊さんがお経を唱え始めて何分か経った頃、なぜかはわからないけれど急に私はボロ泣きしてしまった。

 

訳がわからなくて、自分でも「えっ?どうして?」と動揺しまったほどに。

 

何と言えばいいのか、寂しいやら悲しいやら、とにかく涙が止まらなかった。

 

お経が終わると、「うん、あの子はもう大丈夫だと思うよ」と奥さんが笑いかけてくれると、ほっとして涙が止まった。

 

そうして全て終え、お経代等を払おうとしたけれど、受け取りを断れてしまった。

 

奥さん「菓子折りを持って来てくれたし、いいわよ。それに、うちのお寺は除霊とか専門にしているような所ではないし、今日は暇だったし、ね」

 

「いえいえ、でもお世話になったし、悪いですよ…」

 

奥さん「それなら、それで帰りにお花を買って、あの子に供えてあげるといいよ。生きていても死んでいても、人に忘れられるのは悲しいことだからね。明美ちゃんも、お爺ちゃんとお婆ちゃんに会いに、またいつでも来なさいよ」

 

それに、「また何かあったらおいで」とも言ってくれた。

 

私は奥さんに言われた通りに、お寺から帰る途中でお花を買って、事故現場の所にずっと放置されたままの枯れた花束を片付けてから供えてきた。

 

最初に手が現れた時は口から心臓が飛び出るほど怖かったのに、今となっては少し名残惜しくも思っている自分もいる。

 

もう何だか他人に思えないし、これからも定期的にあの場所にお花を供えようと思う。

 

(終)

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