老婆の視線とすれ違いが続く日々
それは1年くらい前のこと。
私は仕事で車に乗ることが多い。
乗っている時は何もすることがないので、すれ違う車を観察したりする。
他人から見れば嫌な習性かもしれないが。
ある日のこと、いつものようにすれ違う車を見ていた。
その車は四駆で、スーツを着た若い男性が携帯片手にニコニコしながら運転していた。
助手席には着物姿のお婆さん。
最初は変な組み合わせだなぁと思っただけだったが、だんだん近づいて来るにつれて、そのお婆さんの視線が私を見ていることに気がついた。
かなり嫌な視線だった。
冷たい目をしていて、顔色は真っ青。
すれ違うまで、じっと私を見たまま。
私はその日ずっとその目と顔が忘れられず、あまり眠ることが出来なかった。
次の日、時間は違ったがまた同じ道を通っていて、いつものようにすれ違う車を見ていた。
すると、昨日のお婆さんが違う車の助手席に乗っていた。
遠くだったが、また着物姿でこちらを見ているのがわかる。
目線を反らすことなく、すれ違う瞬間まで私を見ていた。
また次の日も、その次の日も…。
そんなことが2週間くらい毎日続いた。
そんなある日、すれ違う車でなく、普通にまっすぐ前を見ていた時のこと。
道の脇に着物を着た人が立っていた。
よく見ると、あのお婆さんだった。
私はなるべく見ないように通り過ぎていった。
その次の日、またその道を通っていると、今までなかった『花』が置いてあった。
まだ綺麗に咲いていたので、誰かがその日か前の日に置いたのだろう。
その日から、お婆さんを見なくなった。
私の中では、お婆さんは寂しかったのかな?と思っているのだが…。
そんなことがあってから、もうすぐちょうど1年になる。
まだ花は置かれていない。
(終)