飛び込み事故が頻繁に続いた駅の怪

駅

 

これは、私の地元であった話です。

 

まるで創作のような話ですが実話です。

 

私は高校時代、電車で通学していました。

 

利用していたのは1時間に1本ペースの路線で、また駅の9割が無人駅という、超ド田舎の私鉄です。

 

2年生に上がった春のこと、私が乗車する駅で若い親子の人身事故が起きました。

 

母親が足を踏み外したか何かが原因で、抱いていた赤ちゃんと共に線路上に落下してしまったと。

 

幸いにも母親は命を取り留めましたが、赤ちゃんは即死だったそうです。

 

聞けば、最近になって越してきた家族だったようで、あまり周りとも面識がなかったみたいですが、ここはとても平穏な町なので、事故のことはその日のうちに町全体に伝わり、花を供えに来たりする人もいました。

 

それから数週間が経った頃、また同じ駅で飛び込み事故が起きました。

 

それを皮切りに、3ヶ月の間に4回も同じような事故が起きたのです。

 

ただ、最初の赤ちゃん以外には死亡事故がなかったことだけが不幸中の幸いでした。

 

そして私が通っていた学校の生徒も、この事故に遭っていたそうです。

 

彼女は足を骨折しただけだったので、間もなく学校へ登校するようになったのですが、「あの時、線路に赤ちゃんがいたの。だから助けようとしたんだけど飛び降りた時にはいなくなってたんだよね…」と言っていたと聞きました。

 

もちろん学校では、その話題で持ち切りに。

 

亡くなった赤子の呪いだ何だのと騒ぎ立てる男子が何人もいました。

 

夏休みに入り、私は課外活動のために、あの駅を利用しました。

 

本当は隣の駅から乗りたかったのですが、その日は送ってくれる人がいなかったのです。

 

家からこの駅までは10分、隣駅までは20分程かかるため、仕方なしにここを利用することに。

 

その日に課外活動があったのは1教科のみ。

 

また選択教科であったのと、あの事故のこともあって、そこにいたのは私一人でした。

 

私は心の中で、「もうすぐ電車が来る。もしも線路に赤ちゃんがいても無視するから」と、何度もそう思いながら待っていました。

 

するといつの間にか、私の隣に俯いた若い男女が立っていました。

 

ブツブツと呟いたり、すすり泣いたり、明らかに様子がおかしい2人に、さすがに何かヤバそうと感じて距離を取ろうとした時、電車の音が微かに聞こえてきました。

 

助かった…。

 

そう思った瞬間、隣の女性が「きたよ」と小さな声で呟きました。

 

私は電車のことかと思っていたら、今度ははっきりと「むかえにきたよ」と、その言葉に何故か背筋がゾッとし、とにかくこの人たちは危ないと思って逃げようとしたのですが、足が竦んで動けません。

 

それも本当に都合よく。

 

「むかえにきたよ、むかえにきたよ、むかえにきたよ、むかえにきたよ、むかえにきたよ、むかえにきたよ・・・」と、何度も「むかえにきたよ」と言う女性が恐怖でした。

 

すると、女性の隣にいた男性が急に私の右手を掴み、「○○がさみしがってる。ともだちがひつようだ。きみもいこう」と言って、そのまま私の腕を引っ張りました。

 

なんとなく、2人は線路に飛び込むのに私を道連れにしたいようでした。

 

私は怖くて「やめて!!離して!!」と、大声で泣き叫びました。

 

必死に腕を振り払おうとしたのですが、男性の握力がかなり強くて微妙だにしません。

 

もう電車は目の前まで迫っていて、私は「ああ、死んじゃうんだ…」と半ば諦めるようなことを思っていると、急に腕を引っ張られる力が弱くなり、私は後ろに倒れてしまいました。

 

頭に強い痛みを感じた後のことは覚えていません。

 

目覚めたのは次の日でした。

 

そこは病院。

 

両親の話によれば、私はあの駅で柱に寄り掛かるように頭から血を流して倒れていて、私が待っていた電車の車掌さんが救急車を呼んでくれたそうです。

 

ただ、「あれは夢だったのかなぁ」と思っていると、右手には人の手の形のような痣がありました。

 

テレビのドラマなどでよく見るようにくっきりと。

 

そして不思議なことに、あれほど立て続けに起きていた飛び込み事故は、その日を境になくなったのです。

 

その後の噂ですが、最初の事故で命を取り留めた母親は、“あの日の朝、夫と共に自宅で自殺していた”そうです。

 

遺書があったそうなのですが、そこに書かれていたのは『きょう、むかえにいくからね』だったと。

 

(終)

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