葬式の日の夜に母を呼び寄せるモノ
これは、私が中学生の頃に体験した話です。
母の兄弟が亡くなり、悲しむ母を連れて家族みんなで母方の実家の葬式に向かいました。
式が一通り終わった後、女性はリビングに、男性は2階の部屋で就寝することになり、みんな泣き疲れていたのかグッスリと寝入っていました。
不気味な程にシーンとする真夜中、母がスッと立ち上がって言ったのです。
「おいてかないで、おにいちゃん…」
ふっと目が覚めた私は、母がペタペタとゆっくり何処かへ行く足音が聞こえました。
見ると、ぽとぽとと涙を流しながらトイレに向かって歩いて行くのを確認したその時、ゾっとしました。
そこで、目だけが確認できる『人の形をした真っ黒いモノ』が母を呼んでいたのです。
私は急いで母の手を引きました。
そして「何処に行くの?」と。
その真っ黒いモノは私を見ると、目を見開いて近づいて来た後、そのまま消えました。
私は安堵しました。
この出来事は、その家を離れるまで誰にも話しませんでした。
なぜなら、少し後になっておかしなことに気づいたからです。
あの時、どうして15人も居たのにみんな静かに寝れていたのか、と。
もしあそこで母の手を引いて声をかけなかったら…。
そう考えると、とても怖くなります。
それ以降、今でも時期が来ると、その真っ黒いモノは私を睨みにやって来ます。
ただ不思議なことに、毎年やって来るのにいつ来るのか覚えていないのです。
恐怖だけが残ったまま、また私はその日を忘れます。
(終)