墓に呼ばれてやって来た婆さん
これは、『ご縁』にまつわる不思議な体験談。
うちの爺さんの実家はちょっと離れた村にあり、そこの共同墓地には先に亡くなった婆さんが祀られている。
その場所が少し珍しい。
県道から私道のような砂利道を通り、両サイドには畑が広がっているので、知らない人にとっては他人の敷地を通るような印象だと思う。
そこを抜けると、山の斜面に段々畑のように区画整備された墓地がある。
婆さんの墓はその区画の一番下段側、つまり畑と最短距離の位置にある。
盆は年に一回、親戚一同が集まって墓を大掃除する。
それ以外にも、爺さんはほぼ単独で月命日など年に数回お参りを欠かさなかった。
手前味噌だが、他の墓は雑草が生い茂っていたりコケが生えていたりする中、うちの墓はどこよりもきちんと手入れがなされていたと思う。
数年前の盆のこと、十数名が集まって草刈りなどに精を出していると、麓から人が近づいて来た。
その背格好が死んだ婆さんにそっくりで、最初は他人の空似だと思っていた。
だが近づくにつれて、顔までそっくりなことに気がついた。
誰からともなく「婆さん!ウメコ婆さんだ!」と叫ぶ中、その婆さんはこちらに来るのが当然というような笑顔で我々の輪に加わった。※名前は仮名
何より、爺さんが「ウメコそっくりだなあ、おめえさん」と目を丸くしていた。
話を聞いてみたら、麓の畑の農家に長いこと住んでいる婆さんだった。
婆さんはこう言う。
家から一番近いうちの墓がよく見え、時々その墓から呼ばれるような気がした。
そこで他人の墓地に足を入れるのは失礼だと承知の上で何度か来てみたが、ここに来ると不思議と落ち着いたような気分になる。
今日は特に私を呼ぶ声が強く感じられたので、呼ばれるままに墓に来た。
皆さんとは初対面だが初めて会う気が全くしなかった、とのこと。
そこで誰かが生前のウメコ婆さんの写真を見せたところ、本人も「あんれま、似でるねえ!」と驚いていた。
そっくり婆さんは「そういえば・・・」と話を続けた。
以前から何度か別人と間違えられることがあったが、それがウメコさんだったのかしら?と。
そしたら爺さんも、同じ体験がウメコにもあったと返した。
この不思議な出会いがあってから以後、家族ぐるみのお付き合いの仲に。
なお、爺さんが駆け落ちしたとかというオチはない。
あとがき
そっくり婆さんと故ウメコ婆さんの若い頃の写真も見せっこしてみたところ、やはり顔だけならそっくりだったそう。
髪型や服装、若い女性特有の生気のオーラが微妙に違っていて、第三者には区別がつかなくても身内なら判別可能だったとのこと。
この出会いがあってから、爺さんが月命日に行けない時はそっくり婆さんが代わりにお参りしてくれることになった。
次に爺さんが行く時には手土産を持参で訪問するのだが、田舎の人の気前の良さからか、畑で採れた野菜をどっさりくれるのだとか。
そっくり婆さんの旦那さんも、「今さら浮気なんてあるわけねえべや」と爺さんの訪問を歓迎してくれているそうで。
(終)