トンネル内で見かけた手招きする少年
これは福島県天栄村の、とある林道の小さな『トンネル』で起こったと言われている話。
ある日の午後1時過ぎ頃、田村さん(仮名)は木々に囲まれた小さな自動車道を車で走っていると、短めのトンネルに差しかかった。
そのままトンネルに入り、抜けようとしたところ、トンネル内の道路の中央に“10歳くらいの男の子”が立っていた。
ビックリして車を停止させると、その男の子は微笑みながら田村さんに向けて“手招き”を始めたそう。
何だろう?
そう思った田村さんは車から降り、男の子の方へと歩み寄って「どうしたの僕?…」と言いかけたその時、男の子は手招きをやめ、手を下ろした。
そして、男の子の足元に何かがポトリと落ちた。
一瞬、見間違えかと思った。
だが、確かだった。
そこには、もぎ取れたかのように男の子の頭が地面に落ちて揺れていた。
あまりの出来事に立ちすくむ田村さん。
しばらくして、男の子の頭の揺れが止まった。
しかしそのまま凝視していると、頭はゆっくりと回転してこちらに顔を向けたので、視線が合ってしまった。
ゾッとしたのも束の間、男の子の頭は田村さんの方に転がり始めた。
思わず「ひぃ」と小さな悲鳴を上げた田村さんは、20メートルは離れていた男の子の立つ地点から、その頭が5メートル程までに近づいてきた時、後ろに向いて走り出し、慌てて車に戻った。
そして車に乗り込むと急いでバックさせ、そのままトンネルから出て元来た道に戻り、本来であれば遊びに行った帰りの近道になるはずだったその道を避け、町中を遠回りして無事に帰宅したという。
後日、田村さんは周りの人たちにその奇妙な出来事を話した。
結論から言えば、あれは見間違えではなかった。
あの時から数週間が経った明るい日に、親しい同僚たちに車に同乗してもらい、そのトンネルを再び訪れた。
ただ、トンネルには入ったが、その時は何も起こらず通り抜けることができた。
出口から数メートル過ぎた地点で一時停車し、少しの間トンネルを見返したが、やっぱり誰もいなかった。
そして車を再び走らせた。
「さすがに二人以上じゃねぇ~」
なんとなく気になって来てみたが、もうこのトンネルは通らないだろうなぁと、運転しながら気が吹っ切れようとしたその時だった。
ルームミラーに映る離れていくトンネルの中に、手招きして立っている男の子が小さくなっていくのが見えた。
(終)