毎晩、森へ入るバイクを確かめようと

俺の自家はど田舎で、

 

後ろには人家が無く、

すぐ山になっている。

 

でも高2の頃、

 

夜10時くらいに

バイクらしきものが1台、

 

森に入っていくのを

ほぼ毎日見た。

 

街灯なんて無いから

誰か分からない。

 

親に言っても

見たこと無いと言われ、

 

どうせ猟師か松茸山を管理してる人

ではないかとあしらわれ、

 

外で飼っている犬も

反応しなかった。

 

その後もほぼ毎日、

森に入っていくバイク。

 

俺が寝ている間に

帰ってしまうのか、

 

森から出て来たところは

見た事が無かった。

 

ちなみに、

 

森をどこまでも行っても

どこにも辿り着けない。

 

狭い砂利敷きの農道が終われば、

他所へ通じる道は無い。

 

俺はバイクの正体が誰かを

突き止めようと思い、

 

家の裏の野菜畑にある

小屋に潜み、

 

見張る事にした。

 

その夜も、10時にバイクは

森に入っていった。

 

その頃に覚えた煙草を

ふかしながら、

 

バイクが帰って来たら、

 

手に持っている懐中電灯で

照らしてやる・・・。

 

何かの夢を見て、

目が覚めた。

 

眠ってしまったらしい。

 

時計は午前4時。

 

その後にバイクが

帰って来る事は無かった。

 

作戦を変更。

 

俺は農道に糸を張り、

 

一方に引き抜くと音が鳴る

装置を着け、

 

その音を近くに隠した

マイクで拾い、

 

小屋まで飛ばし、

ラジオで拾う事にした。

 

ライトが当たっても

見えにくいよう、

 

糸を墨汁に浸けて

カモフラージュもした。

 

ラジオにイヤホンを付ける。

 

これで、眠っていても

バイクに気付くだろう・・・。

 

ここまで読んで、

 

「夜10時に張り込んだら一発だろ」

 

と思う方もいらっしゃると思う。

 

俺もそうしたんだが、

 

張り込む時に限って

バイクは現れ無かった・・・。

 

小屋の中で煙草をふかしながら、

イヤホンでラジオを聞いていた。

 

ただ静寂な雰囲気だけが、

電波を通じて聞こえてきた。

 

またウトウトし始めた。

 

そして、

 

「ブイイイーン、カチャン、カチャン。

ブイイイイーン」

 

「ピピピピッ、ピピピピッ」

 

糸が抜けた音だ!

 

バイクのエンジンと、

ギアチェンジの音もした!

 

糸を仕掛けた場所は、

 

小屋よりも50メートルくらい

森の方へ行った所だ。

 

だから走れば森から出て来る

バイクの正面に出られる。

 

俺は畑の中を

道へ向かって走ったが、

 

異変はすぐに気付いた。

 

バイクは・・・

どこにも見えなかった。

 

確かに音がしたし、

 

後から確認したら、

糸も外れていた。

 

でも、バイクは

どこにもいなかった。

 

狐につままれた様な気持ちで、

 

ある事を確認するために

小屋に戻った。

 

ラジオに入ってくる音を、

俺はテープに録音していたんだ。

 

頭まで巻き戻して聞いてみた。

 

静寂がしばらく続く。

 

が、バイクの音が

近づいて来る。

 

カブがギアチェンジするような

派手な音も聞こえる。

 

やっぱりバイクはいたんだ。

 

そして・・・

 

「うぅぅぅぅぅ、○子ぉ・・・、○子ぉ・・・」

 

消え入りそうな声で

苦しそうな呻き声と、

 

「○子」を呼ぶ声。

 

すぐに思いついたのは、

叔母の事だ。

 

父の妹で、8才の時に

小児麻痺で亡くなった。

 

名前は「○子」。

 

根拠は無かったが

俺はその声は、

 

この世の者の声ではない

と確信していた。

 

恐怖感は後からやってきた。

 

這うように家に入り、

布団を被って目を閉じた。

 

その事を両親に話した。

テープも聞かせた。

 

テープを聞いた父は祖母を呼び、

テープを聞かせた。

 

祖母は驚愕の表情を浮かべ、

泣き出した。

 

○子を病気で亡くした俺の祖父は

少し気がおかしくなり、

 

毎日酒ばかりを飲んでいた。

 

最期の日も

酒をたらふく飲み、

 

○子を迎えに行ってくると言い残して

夜中にカブに乗って森に入って行き、

 

谷川に転落して亡くなったらしい。

 

テープの声は

祖父の声そっくりで、

 

話し始める前に「うぅぅぅぅぅ」と言う癖も、

そのままだったそうだ。

 

テープは近所の拝み屋の

お婆さんに聞いてもらった後、

 

供養してもらった。

 

(終)

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