躁うつ病の女の子にまつわる話 1/2
はじめに、
Tさん、人に話すけど
許して下さい。
この話は、
俺が大学1回生の時から
卒業して1年3ヶ月目に起こった、
5年間に渡る長い出来事です。
大学時代の経緯は
掻い摘んでお話します。
俺は大学に入学してすぐ、
軽音楽部に入部しました。
そこにはTさんという、
見るからに大人しそうな
女の子がいました。
Tさんはいつも、
一人で黙々とキーボードを
弾いていました。
夏休み前のある日、
練習場でTさんが
おろおろしていたので、
俺「どうしたの?」
と尋ねました。
T「ヘッドホンを忘れたの・・・」
俺「俺、家近くだから
取って来てやるよ」
後で聞いた話ですが、
これがTさんがサークルに入って
初めて交わした会話、
だったそうです。
思えば、
この会話が全ての始まり
だったのかも知れません・・・。
その後、
Tさんと会話した
記憶もなく、
日々は過ぎてゆき、
バレンタインデーが
やって来ました。
俺の下宿のポストには、
差出人不明の郵便物が
入っていました。
シガレット風のチョコでした。
その当時、
お菓子に薬物を混入する
事件があったこともあり、
気味が悪かったので
そのまま捨てました。
2回生になり、
新入生と共に、
俺の同級生のN君とK君が
入部してきました。
俺はこの二人とは
どうも気が合わず、
どちらかと言えば
避けていました。
その夏の合宿でのことです。
夜に宴会をしていると、
突然Tさんがマイクを握り締め、
こう言いました。
T「私、○○君(俺のことです)に
遊ばれて捨てられたの」
俺は、頭が真っ白に
なりました。
この人は何を言ってるのだろう?
遊ぶって・・・?
この時点で俺とTさんとの間で
起こった出来事と言えば、
ヘッドホンを貸したこと
くらいです。
呆然としていると、
N君とK君がTさんを
外に連れ出して、
何やら慰めているようでした。
後で聞いた話ですが、
Tさんは躁うつ病の状態で、
現実と空想の世界との区別が
あやふやになっていたそうです。
※躁うつ病(双極性障害)(wikipedia)
そして3回生になり、
俺もサークルのスタッフと
なりました。
この頃からTさんは、
トランキライザー(精神安定剤)を
常用するようになり、
ワインのビンを片手に
キャンパスを歩いている姿が
目撃されるようになりました。
顔は薬物のため
1.5倍くらいに膨れ上がり、
意味不明の言葉を発するため、
講義中に退出させられることも
あったようです。
サークルも休みがちなので、
スタッフ代表として
彼女の自宅に電話して、
今後どうするのかを
相談しようと思いました。
電話に出たのは
彼女の母親でした。
娘が大変迷惑をかけていると、
何回も詫びておられました。
電話の奥で柱時計の
鐘の音が聞こえたので、
何となく、
Tさんはお嬢様だったんだなぁ、
と思いました。
4回生になり、
就職活動が忙しくなった
こともあり、
サークルにはほとんど
顔を出さなくなりました。
噂では、Tさんは休学した、
とのことでした。
その頃から、
いたずら電話がかかる
ようになりました。
・・・無言。
毎日毎日、
夜の12時前後に
必ずかかって来ます。
そのうち、
あることに気が付きました。
電話の向こうで柱時計が
鳴っていることを。