SNSで知り合ったミーコという女の子 2/2
添付されたファイルを開けると、
洗面所の鏡を映した画像で、
左半分には携帯を構えた
二十歳くらいの女の子が、
右半分にはただの白い壁が
写っていた。
この無駄に目を見開いた
ちょっと可愛い女の子がミーコだろうが、
ミーコの言う『怨念こもったお姉さん』
は見当たらなかった。
念のために画像加工ソフトで
調整してみたが、
壁はのっぺりとしたただの壁で、
何も映ってはいなかった。
やはり、ミーコは何もないのに
見たつもりになっている。
大分迷ったがYは正直に、
何も映っていないことを伝えた。
同時に、
重ねて今夜は友達の家に泊まって、
明日お祓いをするようにとも書いた。
そうすれば、
少しは気が済むだろうと思った。
Yにすれば、
すぐにミーコの元へ行けない距離なのが
もどかしくもあったが、
どこか他人事な気分もあるのは
事実だった。
ミーコからメッセージが届く。
「ヤラレタ」
というだけのメッセージと、
添付画像。
画像には、
手首の辺りを横に切った
左腕が写っていた。
これを見て、
Yは一瞬気が遠くなった。
思っていた以上に
やっかいな相手だ。
どう対処するのが正しいか、
Yは初めて真剣に考えた。
飛行機でも新幹線でも使って、
東北に行く。
直接会う、
それしかない。
早速メッセージを送る。
会うもなにも、
住所も知らないのだ。
返信はすぐに来た。
「ゴメン、嘘、嘘だから。
私は大丈夫だから」
何度もメッセージを送ったが、
もう返事は帰って来なかった。
本名も住所も携帯番号も知らない。
もうYに出来ることはなかった。
それから二週間ほどして、
Yの家に刑事が尋ねて来た。
ミーコのことだった。
ミーコは二週間前、
自室で首にナイフを刺した状態で
死亡しているのを、
警察に発見されたという。
物凄い悲鳴と物音に驚いた、
隣人の通報によるものだ。
死亡推定時刻は、
あのメッセージから
そう遠くない時間だった。
事件性も疑われたが、
密室状態であったことなどから
自殺の可能性が高い、
と判断されていた。
ひどく暴れた様子から、
そう楽に死ねた訳ではなかったようだ。
自室には開いたままのパソコンがあり、
そこにYとのやり取りが残っていたため、
念のために事情を聞きに来たという。
とはいえ、
警察の方でメッセージのログは
すでに取得しており、
Yが付け加えて話すようなことも
特になかった。
逆に、
その刑事から『辻紗由』のことを
聞かされた。
「ようは彼女自身だったんです。
SNSに別の名義でもう一人分登録し、
名前を『辻紗由』とした。
彼女は同じパソコンを使って、
『辻紗由』から『ミーコ』に
メッセージを送信していたんです。
『辻紗由』はただそれだけのために
用意されたものです。
どういった心理によるものか・・・
それは専門の先生に
聞いてみもしましたが、
彼女自身の葛藤を
反映したようですね。
ある人格をネット上で演じ続けることに、
無理を感じ始めた。
実生活の彼女は・・・」
Yは、そこで話を遮った。
刑事が帰った後、
Yは強い虚脱感を味わった。
しばらくして起き上がると、
パソコンを立ち上げた。
いつものSNSのサイトを開けると、
『退会』の項目を選択した。
退会処理を終えて、
パソコンをシャットダウンする。
液晶ディスプレイが暗転すると、
そこにはいつもの自分の姿と、
肩の辺りに若い女の子の顔が
映っていた。
「ありがとう」
耳元で声が聞こえた瞬間、
ミーコの姿は消えていた。
そこまで話を聞いていて、
俺はYに聞いてみた。
「結局、ミーコの話は
どこまで嘘だったと思う?
最初っから最後まで、
丸ごと虚言だったのかな?」
「・・・さあな。
でも以前に比べるとそういうのを
信じるようになったんだよな、
俺は・・・」
「部屋に帰るとお帰りなさい、
なんてのは勘弁しろよ(笑)」
Yは笑ったが、
泣きそうな顔にも見えた。
(終)