SNSで知り合ったミーコという女の子 1/2
大学の友人Yから聞いた話。
去年の夏、Yは遅まきながら
SNSに興味を持った。
ネット上のサービスで、
登録した者同士で
メッセージのやり取りをしたり、
特定の話題について語る
コミュニティを作ったりして、
交流するというものだ。
Yが登録したのは
一人暮らし専用SNSという、
その春に一人暮らしを始めたYに、
ぴったりのところだった。
近所で一人暮らしをしている
女の子と出会えるかも、
などという下心もあったが、
実際に始めてみると、
一人用料理のレシピや
洗濯のテクニックなどを
紹介するコミュニティが
大いに役立って、
YはどんどんそのSNSに
ハマっていった。
Yがミーコと出会ったのは、
半分冗談で入った、
「一人暮らしで出会った
オカルトな出来事」
のコミュニティだった。
ミーコというのは
SNS内で名乗るニックネームで、
本名は知らない。
住んでいる場所は東北。
関西に住むYとは随分遠いので
まず会うことはないが、
ミーコの独特の雰囲気が
気に入ったYは、
直接メッセージを送ってみたのだ。
ミーコが変わっているのは、
とにかく不思議なものに
出会い過ぎるということだ。
幽霊は当然のように、
妖怪、精霊、天使、悪魔、
果ては宇宙人ともコンタクトしたらしい。
コミュニティでは賛否両論で、
酷い言われ方をされることもあったが、
変にユルいおかしみのある
反論の仕方が、
Yには面白かった。
「いるもんはいるんだから
仕方ないよぉ。
朝に目を開けたら目の前に
すごい顔のお婆さんがいるんだぜぇ?
キスされるかと思ったよぉ」
万事そんな調子だった。
Y自身は霊感の類いは全くなく、
オカルトは単なる娯楽程度に
考えている。
当然、ミーコの言うことも
本気では信じてはいず、
面白いネタ程度に考えていた。
Yはミーコに話を合わせたり、
たまにはからかったりしながら、
毎日だらだらと雑談のような
メッセージのやり取りを続けていた。
数ヶ月が経った頃、
そのメッセージは深夜に届いた。
「こんなのキタ。
辻紗由さんからのメッセージ
お前ハ私をクルしめるか?
見えないつもりか?
好きカッテ言うつもりか?
お前ハゆるさない
ゆるし許してほしくても許さない
嘘付きには罰を」
コミュニティの中でミーコに
反感を持った人だろうか。
Yは、気にせず放っておけと
メッセージを返しておいた。
しかしミーコのもとには、
毎日『辻紗由』からの
メッセージが届けられた。
内容は同じような恨み言の羅列で、
最後は必ず『罰を』で終えていた。
さすがにYも気になって、
SNS内の『辻紗由』のページを
見てみたが、
ニックネーム以外の情報は空白。
参加しているコミュニティは、
「一人暮らしで出会った
オカルトな出来事」
のコミュニティだけだった。
ミーコに、
SNSの運営に相談した方がいい
と助言した次の日の夜、
またミーコからメッセージが届いた。
「これはマジでやばいかも?
歯磨いてたら、
鏡に知らない女が映ってたよぅ。
すっごい睨んでた。
コワッ。
その後にメッセ届いてるしぃ。
辻紗由さんからのメッセージ
お前みつけタ
にがさん
絶対にニガさん
お前に罰を
マジで呪われた。
私殺される?」
相変わらず緊迫の度合いが
よく分からなかったが、
事態は悪化したようである。
しかしYには、
本当に『辻紗由』が
取り憑いたというよりは、
『辻紗由』のメッセージにミーコが
影響され過ぎたように思えた。
問題はそれをどう伝えるかだ。
幻覚だよ、
と下手に否定すると、
かえって意固地になるのが
ミーコだった。
考えあぐねていると、
またメッセージが届いた。
「お風呂入ってたら
髪引っ張られた!
ナニコレ!
しかも洗面所でまたも
ご対面ですよぅ。
チョット死にたくなったわ」
Yは慌てず落ち着いて、
今日は友達の家に泊まらせてもらえ、
明日神社でお祓いしてもらえ、
とメッセージを送った。
しばらくして返信があった。
「激写してみたぜぇ。
カンペキ写ってるよぉ。
怨念こもったお姉さんだぜぇ」
とのメッセージに、
画像が一枚添付されていた。