部屋の前に立つ女 1/2

 

あれは、

 

俺が前のマンションに

住んでいた頃に起きた、

 

2年前の恐怖体験である。

 

そのマンションは6階建てで、

俺は最上階に住んでいた。

 

見晴らしも良く、

最寄駅も近い。

 

その日、

 

俺はいつものように

仕事から帰り、

 

1階からエレベータに乗った。

 

ちょうど3階を過ぎようとした時、

 

目の前の部屋の前に、

 

女性が背中を向けて

立っているのが見えた。

 

(エレベータのドアはガラスで、

内外から見える)

 

あの部屋の住人の知り合いかな?

 

俺は大して気にも留めず、

自分の部屋へと帰った。

 

翌日、

 

いつものように仕事から帰り、

エレベータに乗り込んだ。

 

そして3階を過ぎようとした時、

 

今日もあの女性があの部屋の前で

立っているのに気がついた。

 

何だ?

 

今日も来てるのか?

 

なんでずっと外で待ってるんだ?

 

時計を見ると、

深夜0時近かった。

 

不審に思ったが、

 

自分の部屋に帰ると

すぐに忘れた。

 

そしてその翌日。

 

金曜だったので飲んで帰り、

 

マンションに着いたのが

午前1時過ぎだった。

 

いつもにように1階からエレベータに乗り、

6階を押そうとした。

 

この時、酔っていたので

間違えて5階を押してしまった。

 

アチャ~と思ったが、

 

まぁ酔い覚ましに5階から

階段を歩くかと思い、

 

6階のボタンは押さなかった。

 

上機嫌で鼻歌を歌いながら

3階に差し掛かった時、

 

その酔いは一気に覚めた。

 

居たのだ、あの女が。

 

今日もあの部屋の前に立っている。

 

そして通り過ぎようとした瞬間、

その女がゆっくりと振り返った。

 

ギリギリ顔は見えなかったが、

 

俺が乗っているのが向こうからも

見えてしまった。

 

なぜか本能的に危険を感じた俺は、

 

5階でエレベータが止まると、

すぐに足音を立てず6階へと、

 

非常階段を上って息を潜めた。

 

エレベータは下がっていった

かと思うと3階で止まり、

 

再び上階へ上がってくる音がした。

 

心臓がバクバクと鳴り始めた。

 

エレベータは5階で止まり、

誰かがウロウロする足音がしている。

 

俺は音を立てずに

自分の部屋に入ると、

 

ゆっくりと鍵を閉めた。

 

ストーカーか?

 

異常者か?

 

どうして俺の後に付いて

エレベータを上ってきたんだ?

 

見られちゃマズイことでもあるのか?

 

しばらく考えたが結論が出ないので、

様子を見ることにした。

 

場合によっては、

不動産屋に報告しなければならない。

 

女は、朝は居ない。

 

夜の何時から何時まで

いるのか不明だが、

 

もし今度見かけたら

警察に電話しようか、

 

などと真剣に考えていた。

 

ここで話を整理する。

 

女が立っているのは、

3階の302号室だ。

 

1フロアに部屋は3つ。

 

なので、

 

302は中央かつエレベータの

正面に位置している。

 

そして、

非常階段はエレベータの横。

 

このため、

 

女に気付かれず階段から3階を突破して

6階に上がるのは非常に困難だ。

 

しかしよく考えたら、

 

なんで俺がコソコソと

悩まなくてはならないんだ?

 

と思い、

だんだんと腹が立ってきた。

 

よし、今度見つけたら

文句を言ってやろう、

 

と心に決めた。

 

女は土日には現れなかった。

 

なんだ、つまんねぇ、

折角文句言おうと思ったのに。

 

月曜日。

 

俺は女のことなどすっかり忘れて、

終電近くまで仕事をして帰宅した。

 

頭の中にはもう、

あの女のことなど微塵もなかった。

 

エレベータが3階を通り過ぎたが、

そこには誰もいなかった。

 

その時点でやっと

女のことを思い出し、

 

あ~、あのスト-カー女、

やっと諦めたか!

 

と、ご機嫌になった。

 

俺が甘かった・・・

 

エレベータが5階に差し掛かった時、

我が目を疑った。

 

居たのだ、あの女が。

 

502号室の部屋の前に

立っているではないか。

 

俺は硬直した。

 

ヤバイ!

 

女はこっちを振り返った。

 

またもやギリギリのところで

顔は見えなかったが、

 

俺が6階に住んでいることが

バレてしまった。

 

俺はパニックになって、

6階に着くと同時に、

 

1階のボタンと閉じるのボタンを

連打し続けた。

 

あれは間違いなく、

 

高橋名人の16SHOTを凌駕したかと

思うほどの速さだった。

 

そして、

そのまま1階に向かった。

 

(続く)

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