部屋の前に立つ女 2/2

 

エレベータが5階を過ぎた時、

すでに女は居なかった。

 

予想通りというか、

 

きっと階段から6階に上がるだろう、

と思ったのが的中したようだった。

 

1階に着いた俺は、

壁に沿って外へ出て、

 

非常階段が見える位置まで

移動した。

 

女が6階の踊り場を、

ウロウロしている姿が見えた。

 

やはりバレていたか。

 

どうしよう。

 

あの手の異常な女には、

近づかないに限る。

 

どうする、

 

友達を呼ぶか、

警察を呼ぶか・・・

 

しばらく思案していると、

女の姿が消えた。

 

おかしいな?

 

どこかに隠れているのか、

帰ったのか・・・

 

しかし、

 

帰るなら玄関から出るしかないので、

必ずここから見えるはず。

 

結局、

 

30分ほどそこで待ってたが

動きがないので、

 

思い切って自分の部屋へ向かった。

 

非常階段で足音を立てずに

上ろうと思った。

 

ドキドキしながら進んだが、

6階まで女の姿は発見出来なかった。

 

なんだ、やっぱりどこからか

帰ったのか。

 

よかった。

 

俺は自分の部屋に入ると、

 

蛍光灯のヒモを引っ張り、

電気を点けようとした。

 

その瞬間、

 

ベランダから何かの気配がして、

固まった。

 

・・・何かが・・・いる・・・

 

俺は蛍光灯のヒモをゆっくり離すと、

聞き耳を立てた。

 

よく見ると、

カーテン越しに人の影が見える。

 

多分、あの女だ。

 

俺は考えた。

 

どうやって入った・・・?

 

そして俺は思い出した。

 

隣の部屋が空き部屋だということを。

 

何度か引っ越しをしたことが

ある人なら知っていると思うが、

 

物件が専任ではない場合、

 

鍵が開けっぱなしになっていたり、

 

給湯器や水道メーターの戸の中に、

鍵が隠してある場合が多い。

 

おそらくそれで中に入り、

 

ベランダからうちのベランダへと

侵入してきたのだ。

 

さすがにここまできては、

警察に電話するしかない。

 

俺は外に聞こえないよう注意し、

警察に電話をした。

 

俺はそのまま音を立てずに

部屋から出て、

 

6階の踊り場でパトカーを待った。

 

万一、女が出てきた場合は

完全な不法侵入なので、

 

俺がとっ捕まえればいい。

 

それだけの筋力はある。

 

程なくして、

無音でパトカーが到着し、

 

お巡りさんが二人、

エレベータで上ってきた。

 

俺は事情を説明し、

 

一人のお巡りさんが空き部屋から、

もう一人が俺の部屋から入り、

 

ベランダで女を確保する、

という作戦でいくことになった。

 

俺はこの時ほど、

 

お巡りさんが頼もしく思えた

ことはなかった。

 

そして作戦決行。

 

ベランダに突入した。

 

・・・誰も居なかった。

 

そう、ベランダには

誰も居なかったのである。

 

そんな馬鹿な!と、

 

俺は自分の部屋(601)と

空き部屋(602)も探したが、

 

女の姿はどこにもなかった。

 

一応、

 

その隣の部屋(603)にも事情を説明して、

お巡りさんが入って行ったが、

 

女の気配は無かった。

 

おかしい。

 

どう考えても消えるわけがない。

 

俺は狐につままれたような

気がしたが、

 

ふと、302号室が

どうなっているのか気になり、

 

お巡りさんに一緒に行ってもらった。

 

事情が事情だけに、

不動産屋にも来てもらった。

 

302号室には、

確かに人が入居しているという。

 

不動産屋さんが鍵を開けようとしたら、

すでに鍵が開いていた。

 

中からは異臭がした。

 

ここから先は

あまり書きたくないが・・・

 

死後一ヶ月ほど

経過していたらしい。

 

俺は怖くて中には入らなかった。

 

たくさんの警官が来た。

 

俺は警察へ呼ばれて、

事情聴取をされた。

 

完全に自殺という状況だったので、

俺が疑われることはなかったが・・・

 

自殺していたのは男性だった。

 

では、あの女は一体?

 

そういえば俺は、

あの女の顔を一度も見ていない・・・

 

結局、それがきっかけで

俺は引っ越した。

 

なので、それ以来、

あの女を見ることもなくなった。

 

しかし、

 

今でもあの女が誰だったのか・・・

謎のままだ。

 

今でもエレベータに乗ると思い出す。

 

おかげで目標階に着くまでは、

目を閉じる癖がついてしまった。

 

(終)

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2 Responses to “部屋の前に立つ女 2/2”

  1. 真海麻衣 より:

    この話に出てくる女とは
    自殺していた男性の恋人だったのではないですか?

    • 女は「男性の恋人」で心配して訪ねて来ていたと考えるのが自然ですが、もしかすると『この世に居るはずのない女』だったのかも知れません。想像を膨らませるほどジワジワと恐怖が襲いかかってきます・・・

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