奇跡の人形と言われる所以

マネキン

 

俺は空き地で、

 

友人の佐藤とキャッチボールをしながら

話をしていた。

 

「なあ、『奇跡の人形』って、

知ってるか?」

 

佐藤はボールを投げながら言う。

 

「奇跡の人形?ああ・・・、

確か聞いたことがあるような。

 

あの家に置いてあったっていう

ぼろい人形だろ?

 

でも、何であの人形は

奇跡の人形って言うんだ?」

 

俺はボールを投げ返し、

そう言った。

 

この空き地の横に立っている、

廃墟の家。

 

そこに誰が捨てたのか、

ボロボロのマネキン人形が置いてある。

 

その人形は人々から奇跡の人形と

言われているらしい、

 

ということは聞いたことがある。

 

「あれは文字通り、

奇跡を起こす人形なんだよ。

 

あの捨てられた人形を最初に見つけた人は

目に異常があって、

 

左目は殆ど失明した状態だったんだ。

 

人形を見つけたその男の人は、

 

顔が泥まみれになっている

その人形が可哀想になって、

 

左目の辺りの汚れを拭いてやったらしい。

 

そうしたら・・・何と、

 

次の朝にはその人の目は

すっかり治っていたんだ。

 

信じられない話だろ?」

 

「確かになあ。

 

でも、偶然人形の目を拭いた

次の日に視力が回復した、

 

ってだけかもしれないだろ」

 

「それだけじゃないんだよ」

 

佐藤は更に、

ボールを投げながら言う。

 

「神社にお参りに行く途中のお婆さんが、

あの家の中に捨ててある人形に気付いて、

 

気になって家に入ってみたらしい。

 

そのお婆さんは、

 

以前に道で転んで左腕を骨折して、

ギプスを嵌めていたらしいんだ。

 

お婆さんは、

 

そのマネキン人形の左腕が外れて、

別のところに転がっているのを見て、

 

可哀想になって腕を拾って、

胴体にくっ付けてやったんだとさ。

 

すると翌朝、

 

お婆さんの腕の骨折も、

すっかり治ってたって言うんだよ」

 

「へえ、凄いな」

 

俺は思わず溜め息をつく。

 

不思議な話もあるものだ。

 

これはどうやら、

かなり有り難い人形らしいな。

 

俺は、感心しながら、

力一杯にボールを投げた。

 

考え事をしていたからだろうか、

ボールは狙いから思いきり逸れて、

 

先程まで話していた廃墟の窓に

飛んでいってしまった。

 

「うわっ、やべえ・・・」

 

佐藤も廃墟の方を見て言う。

 

「おいおい、気をつけろよ。

 

あの家が廃墟だったからよかったけど、

 

もし誰か人が住んでる家の窓に

ボールをぶつけて割ったりしたら、

 

今頃は俺達、カミナリ親父に

怒鳴り散らされてるぜ」

 

「ハハ、それもそうだな。

危ない危ない」

 

そう言いながら、

俺達は廃墟にボールを取りに向かった。

 

ボールは部屋の中央に置かれていた

マネキン人形の首に命中したらしく、

 

人形の首が落ちて床を転がっていた・・・。

 

(終)

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