北海道に生息するヒグマの怖い話 1/2

ヒグマ

 

北海道という土地は、

昔から『ヒグマ』という問題を抱えている。

 

本州の人間からすれば

ピンと来ないのだろうが、

 

北海道の山を歩き回る時は熊鈴は必須で、

クマスプレーという武器も重要なアイテム。

 

ヒグマはカナダなど外国の方が

大量に生息しているイメージがあるが、

 

実は世界中どこを探しても、

 

北海道ほど密集してヒグマが

生息している土地はない。

 

これはあまり知られていないが、

データ上の事実。

 

この話は、

 

そんな北海道でアウトドア系の

大学サークルに所属する俺が、

 

同期の友人に聞いたもの。

 

その夏、

 

十勝山系を縦走していた

登山パーティがあった。

 

パーティはA、B、C、D、Eの5人構成。

 

Aがリーダーであり、

Bはサブリーダーであった。

 

ABCDは中級者であり、

Eは今年から山を登り始めた初級者。

 

パーティのうち何人かは、

かつてヒグマと遭遇したものの、

 

怪我をすることもなく、

やり過ごしたこともあった。

 

これより以下は、

 

Aが手帳につけていた日記から、

まとめられた内容である。

 

山に入って一日目。

 

特に事故も無く、計画通り。

皆が景色を楽しみ、充実。

 

二日目。

 

すでに稜線上のルートを進んでいるが、

 

昨晩の天気予報から

今日の天候が思わしくないため、

 

その日は停滞を決定。

 

※稜線(りょうせん)

山の峰と峰を結んで続く線。尾根。

 

予報の通り、

雨風が次第に強くなり、

 

テント内で食事を作って

腹ごしらえをしつつ、

 

トランプをしたり話をしたりと、

楽しく時間をつぶす。

 

天気予報を聞いた後、

明日は朝から小雨なら出発しようと決めた。

 

二日目は特に何事も無く終了。

 

三日目。

 

朝、一番早く起きたCが、

外の様子を確認にテントを出た。

 

帰ってきたCに様子を聞くと、

 

「少し霧が出てる。

待った方がいいかも知れない」

 

テントの口から外に首を出すと、

辺りは真っ白。

 

出発を遅らせることにする。

 

朝食後、

外に出るが霧が晴れる様子が無い。

 

メンバーは昨日停滞したこともあって、

出来るなら出発したい様子だが、

 

事故があってからでは遅い。

 

話し合って今日も停滞することにした。

 

昼、霧がさらに濃くなる。

 

雨こそ降っていないが、

 

霧の中を歩き回るのは危険で、

テントを出るものは無い。

 

夜、ちょっとしたアクシデント。

 

Eが何の間違いか、

鍋をテントの外に出し放置。

 

夜の動物が活動するこの時間、

食べ物の匂いを外にじかに出すのは危険だ。

 

しばらくしてから、

 

動物の軽い足音がテントの回りを

探るように歩いている。

 

キツネだ。

 

テントから出て追い払う。

 

先ほどの鍋のせいだろうか。

 

この辺りはヒグマが出る。

 

昼なら会ったことはあるが、

夜は危険だ。

 

三日目はこれで終了。

 

四日目。

 

朝、外の様子を確認するが、

 

2メートル先が見えず、

霧に包まれている。

 

本来の日程では、

 

この日になっても停滞するようなら

計画を中止し、

 

別ルートで山を降りることになっているが、

 

霧が濃く、

行動することは危うい。

 

話し合うまでも無く、

また停滞。

 

午後、少しでも晴れそうなら

下山することを考えたが、

 

霧はますます濃くなるばかりで、

昼と言えど薄暗い。

 

トランプも飽きてきて、

話題も尽きる。

 

夜、早めに明かりを落とし、就寝。

 

テントの内側が霧のためにしっとりと濡れ、

テント内の強い湿気に不快感が激しい。

 

数時間後に異変。

 

最初にBが気づき、

隣に寝ていた私を起こした。

 

「足音がする、さっきから。

キツネじゃなさそうだ」

 

眠ってはいなかったのか、

全員が上半身を起こして耳を澄ます。

 

重くゆっくりとした足音。

 

じゃり、じゃり。

 

時折混ざる、

湿気のこもった鼻息。

 

皆が息を潜め、

連想しているようだ。

 

ヒグマ、か。

 

テントの周りをぐるぐると足音が回る。

 

どうやら、一頭。

 

激しい獣臭が鼻を突く。

 

誰からともなく皆がテントの中央に集まって、

身を固める。

 

そのうち、

 

クマがテントの布に鼻を押し付けては

激しくにおいを嗅ぐ、

 

という行動を始める。

 

嗅いではテントの周りを巡り、

また嗅ぐ。

 

皆が恐怖で声を殺し震えながら、

身を寄せて動かない。

 

しばらくして、

全員が身体を大きく振るわせた。

 

クマが、どしん、どしん、と、

テントに体当たりを始めたのだ。

 

テントの布が内側に大きくせり出して、

クマの形を作る。

 

とにかくそれに触れないように身を縮める。

 

本気を出されでもしたら、

クマにとってはテントなど紙切れだ。

 

悲鳴を上げそうなのを堪えながら、

テントの振動に耐える。

 

クマは五分ほど追突を繰り返した後、

またしばらく円を描いて歩いた。

 

また、追突。

 

歩く。

 

Eは泣いている。

 

私も泣きそうだった。

 

明け方までそれが続いたあと、

静かになった。

 

全員が少し眠る。

 

(続く)北海道に生息するヒグマの怖い話 2/2

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