タクシー代が足りないから千円貸してくれ

 

大学生の頃、

 

深夜のドラッグストアで

店員のバイトをしていた。

 

そんなある日。

 

一見してヤクザさんと分かる方が

店にいらっしゃって、

 

「タクシー代が足りないから

1000円貸してくれ」

 

とおっしゃる。

 

あまり関わりたくなかった俺は、

おとなしく1000円を差し出した。

 

「今度お礼するから」

 

と言って、

出て行くヤクザさん。

 

もう二度と来ないで下さい、

と心の中で呟く俺。

 

でもね、来ちゃった。

 

本当にお礼に来たんです、

ヤクザさんが。

 

鶴の恩返しって昔話は知ってるが、

ヤクザさんの恩返しって･･･

 

それに、ヤクザさんと言ったら、

 

「恩返し」じゃなくて、

「お礼参り」じゃないのか？

 

とバカな事を考えていたら、

 

ヤクザさんがおもむろに、

紙袋を俺に差し出す。

 

なんだ？と思い、中を見ると、

ビデオテープが一杯。

 

「無修正だから。

本番やってるから」

 

と、ニヤけた顔で訳の分かんない

説明をするヤクザさん。

 

（いや、あの、ビデオは結構ですから、

1000円返して下さい･･･）

 

俺の心の中を読んだかのように、

ヤクザさんが言った。

 

「売れば一本1000円とは言わん。

5000円位にはなるからな」

 

（って、おい！

誰に売るんだよ！！

 

てか、こんなビデオ、

違法でしょ？）

 

「じゃあ、またな」

 

と言って、

ヤクザさんは帰っていった。

 

残された袋一杯の無修正エロビデオ。

 

･･･見たよ。

 

アパートに帰って見たさ。

 

エロビデオ！

 

普通の男なら誰でも見るよな。

 

お前だって見るだろ？

 

「無修正」&「本番」

 

ヤクザさんの言葉に、

確かに嘘偽りはありませんでした。

 

でもね、一つだけ俺の想像を

越えていたものがある。

 

それは･･･

全てがスカトロものだった事。

 

この前は参ったなあと思い、

その日も深夜のバイトに入っていた。

 

「よお！兄ちゃん」

 

と気さくな雰囲気をかもし出し、

あのヤクザさん登場。

 

で、言ったセリフがこうよ。

 

「どうだった？この前のビデオ。

良かったろ？」

 

ふざけんな！

お前の趣味を俺に押し付けるな！

 

と言いたかったが、

そういう訳にもいかず･･･

 

「いやあ～全部スカトロでしたよ。

あはは･･･（苦笑）」

 

と言ったらヤクザさん、

急にマジな顔になっちゃって。

 

「なにいー！？

 

あの野郎、俺に変なもの

掴ませようとしてやがったな！」

 

と怒り出す始末。

 

なんですか？あの野郎って？

それにもういいですよ。

 

もういいから来ないで下さい。

頼むから！

 

と思っていたら、ヤクザさん･･･

 

今度は申し訳なさそうにポケットから

小さなものを取り出した。

 

何？

 

魚の形をした醤油ケース？

 

あのコンビニ弁当なんかに

付いてるやつ？

 

な、なんですか？

 

もう、あなたの行動は

常識を超えていますよ。

 

ヤクザさん曰く･･･

 

「これ、これやるよ。

これに入ってる液を一滴。

 

一滴でいいからセックスの時に

女のあそこに塗ってみ？

 

そりゃ凄い事になるから！

 

これ使ったら、

処女でもイカせられるから！」

 

って、何ですか？

その中身は？

 

もしかして･･･

 

おおーい！そりゃマズイ！

それだけはマズイっしょ！！

 

人間やめますか？

の液体でしょ、それ？

 

「いらない」

「やる」

「いらない」

「やるよ」

･･････

 

の押し問答の最中でした。

 

店内のカメラに気付くヤクザさん。

 

「カメラ、撮ってんのか？」

 

と聞かれたから、

撮ってますよと答えた。

 

猛ダッシュで逃げていったよ。（笑）

 

カメラはあるけど、

テープ回してないのよ、いつも。

 

これが俺の体験した中で、

一番怖かった出来事です。

 

未だに人間やっています。

 

（終）