立ち入り禁止の川原には何者かがいる 2/2
「いやあああ、いやああああ」
と泣き叫ぶ声が聞こえたかと思うと、
川の真ん中に灰色の人が立っていた。
横を向いたソレは、
「いやあああ、いやああああ」
と口を開けて叫び、
川下をずっと見ながら何者かに
下から引っ張られ消えていった。
何が起きているのか理解できない
俺の目の前に、
さらに別の灰色の人が、
川の底から這い出てくる。
そして同じ方向を向き、
口を開けて叫び、
引き摺(ず)られていった。
それは何人も出て来ては叫び、
引き摺り込まれた。
何人目かの叫び声の後に
川から出てきたソレは、
他のとは違い、
こちらを向いたまま這い上がってきた。
「いやああああああ、
いやああああああああ」
と必死で叫びながら口を開けて、
こちらをずっと見ている。
そして両親を見て、
さらに大きな声で、
「いやああああああ、
いやああああああああ」
と叫ぶ。
姉だ!
そう思った俺は「助けなきゃ!」と、
泣きじゃくりながら走った。
なぜ姉と思ったのか、
なぜ助けなきゃと思ったのかは
今でもわからない。
泣きながら姉の下に近づく俺の前で、
新しい灰色の人が浮かび上がり、
姉を下へ引き摺り込もうとしていた。
「いやああああああ、
いやああああああああ」
姉は必死に抗(あらが)おうと、
体を振り回す。
もう少しで手が届くと思った瞬間、
俺は両親から川原に引き摺り戻された。
「だずげてーよー。
しぬのいやあああああ」
と聞こえた俺は、
必死で抗った。
「何をしているの!」
という母の泣き声に掻き消される様に、
目の前の灰色の人や姉は消えた。
母や父には見えていなかったらしく、
散々説教をされた。
そして姉を救えなかったのは、
俺のせいでは無いと諭された。
俺は泣きながら、
目の前で起きた光景を両親に言いかけて、
やっぱりやめた。
俺の両親は姉が死んでから、
ずっと後悔の日々を送っている。
そんな両親に何と説明すればいいのか。
姉が苦しんでるとでも言うのか。
そんな事は言えない。
その場はごめんとだけしか言えなかった。
何があったの?
と両親が聞いて来なかったのは、
俺がトラウマを持っていると
思ったからだろう。
数日後、
俺は一人でその場所に向かった。
ただ、どれだけ待っても、
そこには何も現れなかった。
俺は灰色の姉が現れた場所に、
近くの神社で買ってきた護符や、
寺で買ってきた護摩を投げ入れた。
どうか姉が苦しんでいませんように、と。
それ以外に方法が分からなかった。
その日に姉が笑っている夢を見た。
夜中に飛び起きて泣きじゃくった。
<以下、あとがき>
どうしても川の事故は、
本人の不注意だけの問題じゃないと思う。
事故の遺族であり、
目の前で起きた事に対するトラウマから、
この様な事を思うのかも知れない。
だけど、昔から日本には、
川や沼に住む河童だったり幽霊だったりが
怪談として語られるように、
何か得体の知れない事やモノがいると思う。
来週が命日だから、
雨が降ってなければ川原に
参拝しに行く事になる。
あなたも川などに行く時には、
十分に気をつけてほしい。
自然に含まれるのは、
川の流れや風だけではなくて、
別のモノも居るように気がする。
気をつけようが無いものかも知れないが、
立ち入りを禁止しているような場所というのは、
何か曰くがあるのではないかと思う。
最後に、
川に住む妖怪で調べたところ、
川男という妖怪が、
色や姿形が俺の見たものと類似していた。
ただその妖怪は、
悪さをするような奴じゃないらしい。
それに俺の見た姉も、
灰色の人になっていたから違うと思う。
個人的な見解としては、
親や俺の思念の具現化の様な気がしている。
残された俺や両親たちが、
姉をその場に張り付けていたのではないか、
と何となく思った。
今は成仏していると思うようにして、
もう苦しんでいないことを本当に願う。
(終)