店じまい間近のレンタルビデオ屋にて

 

3年ほど前の話。

 

俺はあるレンタルビデオ屋で、

 

店じまいまでの二ヶ月間だけの

期間限定のバイトをしていた。

 

店にはそれなりに人が来ていたが、

エロ目的のDQNや固定客ばかりだった。

 

※DQN（ドキュン）

インターネット用語で一般の感覚から著しくズレている者、もしくはそれらで形成された集団の事である。非常識人。

 

そんなある日のこと。

 

俺とバイト仲間の二人で

店番をしていたのだが、

 

中学生くらいの少年が来店した。

 

すでに22時過ぎであったため、

 

DQN以外の子供が居る時間ではないし、

なにより服装がおかしかった。

 

その頃は春といっても

まだ肌寒いくらいだったのに、

 

あからさまな寝巻きのズボンに

肌着一枚だったのだ。

 

うわあ･･･

なんか家出っぽいなあ･･･

 

と思った俺たちは暇もあって、

その少年に声をかけてみた。

 

少年は暗い感じだったが、

 

どうやら家出ではなさそうなことを

言っていた。

 

ただ、凄く怯えているというか、

かくまって欲しそうな感じがした。

 

そんな様子でも、

 

心配するほどでもないか･･･と思い、

少年のことを気にしないでいた。

 

少年は30分ほど時間を潰して、

そして帰っていった。

 

次の日も、

少年は来店した。

 

万引きという感じでもなさそうだし、

気にせず仕事をしていた。

 

そして、次の日も･･･

 

（普通は追い出すだろうが、

もうすぐ店じまいだし、

 

そんなにきっちりやらないで

いいかと思っていた）

 

しかし、一週間ほどした頃、

少年が来なくなった。

 

客が離れるのは当たり前だし、

大して気にはしていなかったが･･･

 

その店の近所で、

 

ある母親が中学生の息子を殺害して

逮捕されたのを知ったのは、

 

数日後のことだった。

 

殺されたのは案の定、

あの少年だった。

 

かなり虐待されていたようで、

 

あの時に助けられなかったのは

残念に思った。

 

さて、

この話の本題はここからである。

 

そのレンタルビデオ屋には

盗難防止用に防犯カメラがあり、

 

二階で主任がモニターでチェックしていた。

 

ある日、

休憩時間に二階で飯を食っていると、

 

主任がこう言った。

 

「あの中学生まだ来てるんか。

いい加減、警察呼ぶか？」

 

俺は店番していたが、

中学生など来ていない。

 

「え？あの、って半袖の？」

 

「おう、まだおるやないか」

 

俺がモニターを見ると、

確かに少年が映っている･･･

 

「あ、でも、知りません？」

 

主任はきょとんとして言った。

 

「何が？」

 

「いや、あの中学生。

 

こないだ殺されて、

ニュースに出てましたよ」

 

主任はニュースを見ない人だったので、

全然知らなかったようだ。

 

「でも、おるやろ？」

 

焦った声で言いながら、

主任がモニターを指差した。

 

･･･確かに、

あの少年と同じ服装だ。

 

「多分、

同じ服装の男が居るんでしょ。

 

確かめてきます」

 

そう言って俺は一階に下りて、

防犯カメラに映っている場所を確認した。

 

･･･しかし、

そこには誰も居なかった。

 

レジにいたバイト仲間に訊くと、

 

「そんなのおらんかったと思うけど、

カタログ見てたから知らん」

 

と言った。

 

俺は不思議に思い、

二階に上って主任に言った。

 

「入れ違いになったみたいです」

 

すると、主任は言った。

 

「お前が下りていったら、

 

お前の目の前を通って

店出て行ってたやないか」

 

次の日から防犯カメラは故障中となり、

モニターに彼が映ることはなかった。

 

俺はそれからすぐにバイトを辞め、

 

店も店じまいをひと月早めて、

すぐに廃墟と化した。

 

あの少年の最後の心のよりどころは、

レンタルビデオ屋だったんだろうか。

 

今でも廃墟化したその店には、

彼がいるのかも知れない。

 

（終）