僕の人生を変えた一通のメール
これから話す出来事は全て”実話”である。
人生というものは、何がきっかけで幸せになれたり不幸になったりするかが本当に分からないものだ。
僕の人生を大きく変えたのは『一通のメール』だった。
僕は近いうちに死ぬのだろう・・・
僕は昔から正義感が強いせいか、”自殺”というものがどうしても許せなかった。
精神病だか何だか知らないが、自殺するぐらいの勇気があるのなら何だって出来るだろ!・・・という考え方だった。
今では減ったものの、以前は自殺サイトのようなものがインターネット上には多々あったものだ。
僕はそのような自殺サイトを見つけては、自殺を止めるような書き込みをしていた。
その際は必ず自分のメールアドレスを書いて、「悩みなら何でも聞くので遠慮なしにメールを下さい」的な書き込みをしていた。
どれだけの自殺サイトに書き込んでいた事であろうか・・・。
しかし、その大半は僕の書き込みが気に入らないのか、サイトの管理者に消されたり無視されるのがほとんどだった。
そんなある時だった。
一通のメールが僕に届いた。
そのサイト名と共に、「自分はある精神病で悩んでいて、今現在は自殺を考えていた。だけど、あなた(僕)の書き込みを見て生きる希望が湧いてきた」という内容だった。
僕は本当に嬉しかった。
僕の書き込みで自殺なんて馬鹿な考えを止めてくれた人がいてくれたことに。
そのメール送ってくれた人は僕と同じくらいの歳の女性(以下、K子)で、偶然にも住んでいる地区が同じだった。
その後も僕とK子は何度かメールのやり取りをしているうちに、僕たちは自然と仲良くなっていった。
最初のメールをもらってから半年ぐらい経った頃だった。
僕はK子に惚れてしまっていた。
それまではメールだけの関係だったのでK子の外見などは全く分からなかったが、その時の僕はそんなことはどうでも良かった。
仮にK子が50歳のおばさんだったとしても、愛せる自信があった。
しかしながら、『K子はメル友以上の関係を望んでいなかったら』・・・と思うと、なかなか「実際に会おう」とは切り出せなかった。
そんなある日、K子に嫌われるかも知れない覚悟で「一度会わないか?」とメールを送ってみた。
K子はあっさり「OK」と返信してくれた。
そうして実際に会う日がやって来た。
K子はメールで言っていた通りの同年齢の女性で、とても可愛かった。
初めのうちは食事やカラオケだけだったが、次第に会う回数も増え、やがて僕たちは付き合うことになった。
K子のアパートに呼ばれた時、僕はK子に「結婚してくれ」と言った。
K子も「あなたを一生愛し続けたい。ここで私を抱いて」と言ってくれた。
その日、僕たちは愛し合い、そのまま共に眠りについた。
翌朝、目が覚めるとK子の姿が無いことに気づく。
携帯を見てみると、K子からの新着メールがあった。
「ごめんなさい。あなたのことが好きだったから同じ世界に来て欲しかった・・・」
寝起きのせいか、意味不明な内容で理解出来なかった。
僕はすぐにK子の携帯へ電話をした。
しかし繋がらず、メールを送っても返信が来ない。
その後も何度もメールを送ったが、結局は返信されることは無かった。
数日が経った頃、僕は体調不良が続いていたので病院で検査をしてもらった。
その結果、どうやら僕は『エイズに感染している』ことが分かった。
僕の人生はその時に終った。
幸いにも実家が裕福だったのでなんとか今も生き延びてはいるが、毎日のように身体がツライ。
僕はいつまでも生きられるわけでもなく、近いうちに死ぬのだろう。
僕は探偵事務所にK子は今どこにいるのか探してもらってはいるが、未だ見つからず・・・。
自殺をする人間を理解できなかった僕が、今は自殺する人間の気持ちが痛いほど分かるようになった。
そして最近、変な夢を見た。
K子と愛し合っている最中に、「ごめんなさい。ごめんなさい。向こうの世界であなたを待っているから・・・」とK子が叫ぶ夢を。
こんな変な夢を見てしまうのは、僕が精神的に追い詰められているからだと思う。
でも、『K子は恐らくもうこの世にはいない』・・・ような気がする。
(終)
wellcome to “AIDS world”