夜な夜な聞こえる壁を引っ掻く音
知人が体験した話です。
彼は杉並区にある築40年は経とうかという古い木造アパートに一人暮らしをしていました。
最近ではどこもそうでしょうが、隣人とも会話は無く、すれ違い様に会釈する程度の付き合い、という人も多いのではないでしょうか。
彼も越してきて半年にもなりますが、隣に住む人の顔も知らなかったそうです。
そんなある日、隣人とたまたますれ違った時に、「あんたさぁ、夜中に壁を引っ掻くのを止めてくれない?うるさくて眠れないんだけど」と言われました。
彼はサッパリ意味が分からず、「そんなことしませんよ?夜中は寝てますし」と。
しかし隣人は、「次にやったら大家に言うからね」と吐き捨て、部屋に戻っていきました。
もちろん彼は身に覚えはありません。
近所付き合いなんて面倒だな、という程度にしか捉えませんでした。
その翌日の夜、仕事から帰宅して疲れ切っていた彼は、すぐに布団に横になって眠りにつきました。
深い眠りについていた時、突然壁を「ドン!ドン!」と叩く音が。
彼はその音で驚き、目を覚ましました。
眠気まなこで彼は、「隣の奴だな・・・なんだってんだよこんな夜中に・・・」と、急に起こされたせいでイラつきました。
が、疲れていたので再び眠りにつこうとした時、「カリカリ、カリカリ」と、なにかを引っ掻くような音が聞こえるのです。
ネズミかな?と月明かりしか差さない薄暗い部屋を見渡すと、隣人に叩かれた壁側に、5歳くらいの小さな男の子が壁を向いて座っていたのです。
そして男の子は爪で土塗りの壁を「カリカリ、カリカリ」と。
彼は凍りつきました。
隣人の言っていたことは本当だったのです。
10分ぐらい経った頃でしょうか、彼はしばらく布団の中からその男の子の様子を見ていましたが、意を決して男の子に訊きました。
「ぼく、なにやってるの?」
すると男の子はこちらを振り返り、「この中にお母さんがいるの」と言った後、再び壁をカリカリと引っ掻き始めました。
その後、すぐに彼が引っ越したのは言うまでもありません。
(終)