悪魔と思われるものに遭遇した

十字架

 

俺は大学を卒業して、すぐにニューヨークへ留学した。

 

語学の学校に2年通い、その後に専門学校に入校。

 

仲の良い友達も出来た。

 

向こうにいてビックリしたのは、”引越し”をすることがイベントになっていて、業者などを利用せず仲間で終わらせること。

 

その日、同じクラスのヴェネズエラ人の引越しを手伝うことになり、俺を含めた日本人2人とトルコ人、プエルトリコ人でスタートした。

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あそこにいるのは”悪魔”だ

元の家から荷物を運び出し、アストリアというエリアまでレンタカーで移動。

 

新居に着き、ドア開けるなりツーンと土の匂い。

 

ニューヨークで3回目の経験だ。

 

恐る恐る入るとワンベットルームらしく、玄関を入ってまずキッチンがある。

 

次にリビングがあり、その奥にはドアがあって寝室。

 

寝室まで行くと、土の匂いが無くなった。

 

荷物を部屋に上げる度、ドアをくぐると何かを感じる・・・。

 

玄関を開けてすぐ左の壁。

 

とりあえず引越し作業が完了するまで無視することに。

 

夕方に作業も大方終わり、皆でサッカーゲームをしていた時だった。

 

玄関に行って壁を見てみると、物凄く嫌な気分になった。

 

壁をじーっと見ていると、アンバランスな『+』字のマークが何層か前に塗られたペンキの中にありそうな感じがした。

 

日本人の友達を連れてきて「見える?」と聞くと、「十字架を逆さまにしてるんじゃないか?」と言われた。

 

少し気持ち悪くなったが、夜中まで遊び、その部屋に泊まった。

 

プエルトリコ人は帰り、主のヴェネズエラ人は寝室で、俺ともう一人の日本人はソファから引き出すベッドで、トルコ人はソファで寝ることに。

 

だが、ここからが地獄だった。

 

俺も酔っていたのですぐ眠れると思っていたが、玄関が気になり過ぎて全く眠れなかった。

 

起き上がってトイレに行き、ベッドに戻って再び目を瞑ると突然金縛りに。

 

そして、玄関の方からデカイ男が二人、こちらに向かって歩いてくる。

 

俺は目が開いたままだ。

 

目が閉じれない金縛りは初めてだったので、危うく失禁しそうになった。

 

こちらに歩いてきたのは、黒装束に身を包んだデカイ男が二人。

 

二人とも白人だったが、ヨーロッパ顔だ。

 

二人がゆらゆらと歩いて来て、玄関側に背を向けているソファの前で立ち止まった。

 

ソファで寝ているトルコ人の耳元で、何かをブツブツと言っているようだ。

 

2~3分後、デカイ男二人はこちらに近付いてきた。

 

俺の体を足元からすり抜けると、枕元に立ち見下ろす。

 

頭の上から打ち落とされるように、英語ではない呪文のような言葉をひたすら繰り返す。

 

10分ぐらいか、30分以上か。

 

怖さが限界を感じていて、時間の感覚は無かった。

 

が、今でもその男二人の顔を覚えているぐらい長かった。

 

どうやら呪文が終わったらしく、男二人が消えると金縛りも解けた。

 

ここで終わると思いきや、またすぐ金縛りに。

 

いつの間にか、部屋には土の香りが漂っている。

 

急に最悪な気分になり、いっそ死んた方がいいや・・・的な空気になった。

 

その時、天井に何かが飛んでいた。

 

“悪魔”か、あるいは”鬼”か。

 

全身が太い血管で覆われ、大きさは50センチぐらい。

 

直視できなかったが、形は超猫背な人間のよう。

 

色は緑か青。

 

寝ている3人を上から見渡し、「you guys are not…..」と言いながら壁から出て行った。

 

「お前らは・・・・・じゃない」と言われ、大丈夫だと安心した途端、眠りに落ちた。

 

翌朝、トルコ人に「昨日変な夢みたか?」と聞くと、すごく嫌な夢をずっと見ていたと怒っていた。

 

逆に日本人の友達に昨夜の話しをすると、全然知らなかったと言われた。

 

ただ面白かったので、部屋の主には何も言わず不動産屋に昼から二人で行くことにした。

 

マンハッタンやブルックリンは、築100年や80年とかは当たり前なところがあるが、主の部屋は築40年。

 

不動産屋に行くと担当がおじいちゃんだったので、もしかしたら・・・と思った。

 

ユダヤ人のおじいちゃんにアパートの住所を伝えて昨夜のことを話すと、笑いながら「that kinda shit never gonna happen」、そんなこと起こるわけない!と失笑を交えながら答えられた。

 

ただ、37年分の履歴をすぐ見れるから調べよう、となった。

 

手書きの履歴を3人でめくっていくと、79年でビタっと手が止まった。

 

そこには筆記体で書かれた名前の上から二重線が引かれて、『evil(悪の)・・・の為・・・・・』と若き日のおじいちゃんのメモ書きが。

 

おじいちゃんは難しい単語ばかりで話していたが、明らかに“悪魔崇拝信教の人間が住んでいた”ようだ。

 

俺たちが来る今まで、おじいちゃんは本当に忘れていたらしい。

 

ただ、部屋の主には申し訳なさすぎて何も言わなかった。

 

結果、その後2年間その家には行かず、当然ながら俺の身には何も無かった。

 

が、恐らくあそこにいるのは”悪魔”だ

 

場所は、アストリアに24時間開いている有名な大きいダイナー(プレハブ式レストラン)があり、そこから徒歩10分圏内のアパートの一室。

 

(終)

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