正義の味方ヒーローのお兄さんのつもりが
犬の散歩に行った時、子供達が線路に立ち入ろうとしているのが見えた。
5才くらいの女の子と、7才くらいの男の子。
「電車が来るから危ないよ」と声をかけると、男の子が半泣きで「ボールが線路脇の草むらに入っちゃった」と言っていた。
素通りしようかとも思ったが、その後の子供達の危険な行動は容易に想像できたので、俺は「取りに行ってあげるよ」と声をかけて草むらに入った。
数年ぶりに本気で泣いた
フェンスの下の隙間をくぐり、電車に注意しながら線路脇の草むらに入る。
子供達にどの辺か聞きながら、ようやくサッカーボールを発見した。
さあ戻ろう、と腹ばいでフェンスをくぐりつつ草むらから顔だけ出した時、女の子が目の前に立っていた。
そして、キャー!と奇声をあげつつ、「おじちゃんパンツ見たぁー!」と叫び走り回る。
何事か!?と出てくる近所の住人達。
遠巻きに立ち止まり、注目する散歩中のババア集団。
草むらとフェンスの隙間からは、腹ばいで上半身だけ出ている俺。
「のぞきー!エッチー!変なおじさーん!」と叫びながら、満面の笑顔で走り回る女の子。
その後、おっさん集団に草むらから引きずり出された俺は羽交い絞めにされ、「警察呼んでー!」と叫ばれ半泣きになったが、7歳の男の子の必死の説得により解放された。
「おじちゃんは悪くない!!」
男の子の悲痛な説得に、数年ぶりに俺は本気で泣いた。
あとがき
あの突き刺すような住人達の視線は恐ろしかった。
これは、ほんの2時間前に体験した実話だ。
男の子が良い子で本当に良かった。
こんな状況で必死に訴えてくれる子なんて、なかなかいないと思う。
普通なら、男の子も大人達の剣幕にビビッて固まりそうなもの。
今になって冷静に考えると、男の子のほんの些細な行動次第で俺の人生は終わっていた。
その時は男の子は当然の事を言ってくれているだけ、としか思っていなかった。
7歳くらいで、しかも暴動のようになっている大人の集団に、きちんと物事を説明できる子なんてなかなかいない。
でも遠巻きに見ていた連中は、誤解も解けて犬を連れて歩き出した俺を、いつまでも不審な目で見ていた。
アパートのベランダから見ている人もいたし、車を徐行させながら見ている野次馬もいた。
騒ぎを見ていた一人一人に釈明もできない。
俺は正義の味方ヒーローのお兄さんのつもりが、地域に警戒される少女趣味の変質者おじさんになってしまった。
ボールを取った後、「お兄ちゃんてウルトラマン?」と言われるかと思って、「みんなには秘密だよ♪」なんてセリフを用意していたのに。
だが実際に言っていたのは、「見てない!!見てないって!!」だもんな・・・。
(終)
女の子が叫んだ瞬間に襲えば冤罪じゃなくなるぞ!