作り話と実話のはざまで 1/3
これは去年の夏の話。
男友達の企画で、
合コンをやる事になった。
当時の俺達は30手前の男3人。
集まった女性も20代後半で、
皆落ち着いた感じ。
「初めまして~」
などと一通りの挨拶をしながら、
近くの居酒屋へ入る。
会話もそこそこに盛り上がり、
というか、
かなり当たりの合コンだったと思う。
夜10時を過ぎた頃、
友達の家で全員で飲み直そう、
という話になる。
俺はというと、
その中の一人を結構気に入っていた。
エスニック風なロングヘアーの、
いい雰囲気を持った子だった。
なのでもう少し話したいのもあり、
友人宅への移動に大いに喜んだ。
材料等を買い集め、
支度が整ったのが11時前。
二次会が始まった。
友人宅は1LDKという広さ。
多少であれば夜中でも話していて
迷惑にならない立地だったので、
飲み屋でのテンションを維持しつつ、
時刻が1時にさしかかろうという頃だった。
友人(家主ではない)が、
「丑三つ時まで、
百物語風で怖い話を話さない?」
と言い出した。
※丑三つ時(うしみつどき)
今の時刻でいう午前2時~2時30分頃。
丑の刻とは、
1:00~1:30 (丑一つ時)
1:30~2:00 (丑二つ時)
2:00~2:30 (丑三つ時)
2:30~3:00 (丑四つ時)
夏の定番と言えば怖い話。
気後れしながらも、
全員でやる事になった。
ロウソクなんて何で買ったのか疑問だったが、
つまりはこういう事だったのか。
と、一人で納得していた。
俺は、怖い話というのは9割が
作り話だと思っている。
残りの1割は、
どうにも説明がつかないが、
実は別に心霊現象ではなく、
雰囲気に呑まれ、
心霊現象だと勘違いしてしまう例。
だが、その中でも多分だけど、
本当に説明のつかない事例があると思う。
一つ、また一つと話す友人達。
女性達の話は、
まさしく前者の話だったと思う。
そうして俺の番が回ってきた。
俺には小学生の低学年の頃、
とても仲の良い二人の友人がいた。
一人を「ヤッちゃん」
一人を「ヨシ君」と言い、
ヤッちゃんは同い年で、
ヨシ君は2歳年上だった。
家も近所で、
毎日のようにヨシ君の家で遊んだ。
ヨシ君の家の人は仕事で出ている事が多く、
毎回お菓子を貰って帰っては、
親に怒られた。
だけど当時の3人は本当に仲良しで、
外に出れば子供特有の感覚で、
新しい遊びを探し出した。
千葉県市川市の某所には、
寂れた神社がある。
その神社を中心にして、
500メートルほどの直線の出入り口があり、
ヨシ君の家から遠い出口付近に、
廃屋となった建物があった。
当時の少年達の間では、
その家の話は禁忌(タブー)とされていて、
「近づくと呪われる」
「白い服を着た女の霊が出る」
などと、
今思うとバカらしい噂が立っていた。
でも実際そこに足を踏み入れた
ツワモノも数多く、
勇気を示す場としても、
有名な場所だった。
誰が言い出したか覚えていないが、
いつのまにか俺達は、
「その廃屋へ行って、
勇気を示さなければならない」
という話になっていた。
もちろん3人の間だけでの話だ。
そして某日、
そこに俺達は足を運んだ。
なんとも言えない恐怖と、
子供特有の高揚があったと思う。
とにかくドキドキしていた。
その廃屋は、
周囲が全て雑草で覆われていて、
整理されていればかなりの広さの庭が
あったのではないかと思う。
そして、その庭の周りは、
大きな木で囲われていた。
誰から入ったかは覚えていない。
何しろドアが付いていなかった。
覚えているのは、
ヤッちゃんがやたらと怖がって
泣いていたのと、
異常に古そうな新聞紙が散乱している
ひと部屋があった事。
そしてヨシ君が蒼白な顔で、
「もう帰ろう」と言い出した事。
ヨシ君は年長者だったので、
3人のリーダーだった。
そうして初めての探検は終わり、
泣き止まぬヤッちゃんの手を引いて、
俺達は家へと帰った。
泣きじゃくっていたヤッちゃんを、
俺達は「弱虫~」というレッテルを貼って、
帰り道でからかった。
だからだと思う。
ヤッちゃんはもう一度あの廃屋へ
行きたいと言い出したのだ。
俺はその日に限って従兄弟が家に来ていて、
参加する事が出来なかった。
怖かったのもあったので、
参加出来ない事を喜んでいたと思う。
事件が起きたのは、
その日だった。
その廃屋で、
ヤッちゃんの母親が自殺した。
首吊り自殺だった。
(続く)作り話と実話のはざまで 2/3