作り話と実話のはざまで 2/3
目撃したのは、
ヤッちゃんとヨシ君の二人。
俺が参加していれば、
3人になっていただろう。
どうやって対応したのかは分からないが、
警察やらが集まり、
結構な大騒ぎになった。
その話を聞いたのは、
翌々日くらいだったと思う。
その廃屋と俺の家が
少し離れていたのもあってか、
パトカーのサイレンが鳴り響いていた
記憶が無い。
夏休みという事もあり、
噂話が届かなかった。
それ以来、当然というか、
ヤッちゃんと顔を合わせなくなった。
俺はヨシ君と二人で遊んでいたが、
だんだん気まずくなり、
少しずつ遊ぶ回数が減っていた。
夏休みも終わり学校が始まったが、
ヤッちゃんは登校して来なかった。
その頃にはもう噂は広まりきっていて、
ヤッちゃんが登校しない理由は、
暗黙の了解で誰も触れる事をしないように
なっていた。
俺は毎朝ヨシ君とヤッちゃんと
3人で登校していたので、
2学期からはヨシ君と二人で
登校する事になった。
取り除けないシコリを持ちながらも、
俺達は精一杯楽しくなるよう、
登校していたと思う。
だが、ある日突然、
ヨシ君が変わった。
登校の待ち合わせ場所に行くと、
下を向いて俺を待つヨシ君。
「おはよう」
と言っても返事は無く、
「どうしたの?」
と言っても返事は無い。
だが、
以前と同じように登校する。
変わったのは、
口数が異常に減った事。
先の事件が関係しているのではないか。
と思うのは、
子供でも間違いなく感づく。
俺はしつこく彼に詰め寄った。
何があったのか。
ヤッちゃんが関係しているのか。
あの廃屋が関係しているのか。
しまいには、
話してくれないなら絶交する。
などと、
なんとも惨(むご)い事も言った。
するとしばらくして、
彼がぽつりぽつりと話し始めた。
ここから先は、
俺にも真実のほどは分からない。
だが、ヨシ君がこう語った。
先日、
彼はヤッちゃんの姉と同行した。
姉はヨシ君と同い年で、
彼女からの願いで『あの廃屋』へ
連れて行ったのだという。
だが、彼女は少し知恵遅れ的な様子で、
事の重大さを分かっていなかったのでは
ないかと思うが、
とにかく二人で廃屋へ行ったのだという。
そして扉の無い玄関をくぐると、
ヤッちゃんがいたらしい。
天井を見上げたまま、
「アアアアアアアアアアアア」
と気の抜けた声を出し、
その視線の先には、
ヤッちゃんの母親がいたという。
当然、すでに現場にヤッちゃんの
母親の遺体があるわけもなく、
今起きている状況の異常さに、
ヨシ君は逃げ出そうとした。
だが、後ろにいたヤッちゃんの姉が
ヨシ君の手を引っ張り、
「誰にも言っちゃ駄目だよ」
と言ったらしい。
誰にも言ってはいけない話を、
俺にしてしまった。
俺が絶交するなどと言ったばかりに。
そして全てを話したヨシ君は
泣きじゃくって、
「どうしよう・・・どうしよう・・・」
と喚いた。
俺はどうする事も出来ず、
酷い事をしたと思うが、
家へと逃げ帰った。
登校拒否児となってしまったヤッちゃんは、
どこかへ転校してしまい、
それ以来、会っていない。
そうしてヨシ君とヤッちゃんとの関係は、
一気に疎遠になってしまった。
それから数年が経ち、
俺が高校生になってしばらくした頃だった。
久しぶりに、
ヨシ君から電話があったのだ。
小学校低学年の時から数えて、
もう何年も話していないので、
何を話していいか分からない相手だ。
久しぶりと挨拶して以降、
会話が続かない。
そうこうしていると、
ヨシ君が切り出した。
「このあいださ、
マリちゃんから電話があったんだ」
俺は何のことか全く分からなかったが、
記憶を総動員し、
マリちゃんがヤッちゃんの姉だという事を
なんとか思い出した。
そしてヨシ君は続ける。
「前に話した空き家の事を覚えてる?
マリちゃんが○○ちゃん(俺)に
あの事を話したのを怒ってるんだ・・・」
という。
つまり、彼女は何故か、
ヨシ君が俺に廃屋で体験した話を
した事を知っていて、
誰にも言っちゃ駄目だと言ったのに、
話したのを怒っているという。
「どうしたらいいかな?
マリちゃんが怒っているんだ。
俺、マリちゃんに言わないでって
言われたのに。
どうしたらいいかな?」
何度も何度も、
壊れたテープレコーダーのように
繰り返すヨシ君。
俺は怖くなって電話を切った。
そして二度とヨシ君からは、
電話が掛かってくる事は無かった。
何故かと言えば・・・
その後しばらくして、
ヨシ君は猟銃で頭を撃って
自殺したからだ。
(続く)作り話と実話のはざまで 3/3