姦姦唾螺 6/7
すると、おっさんは身を引いてため息をつき、
Bのお母さんに言った。
伯父「お母さん、残念ですがね、
息子さんはもうどうにもならんでしょう。
わしは詳しく聞いてなかったが、
あの症状なら他の原因も考えられる。
まさかあれを動かしてたとは
思わなかったんでね」
B母「そんな・・・」
それ以上の言葉もあったんだろうが、
Bのお母さんは
言葉を飲み込んだような感じで、
しばらく俯いてた。
口には出せなかったが、
オレ達も同じ気持ちだった。
Bは、もうどうにもならんって・・・、
どういう意味だ?一体何の話をしてんだ?
そう問いたくても、
声に出来なかった。
オレ達三人の様子を見て、おっさんは、
ため息混じりに話しだした。
ここでようやく、オレ達が見たものに関する
話がされた。
俗称は『生離蛇螺』/『生離唾螺』
古くは『姦姦蛇螺』/『姦姦唾螺』
なりじゃら、なりだら、
かんかんじゃら、かんかんだら
など、
知っている人の年代や家柄によって、
呼び方はいろいろあるらしい。
現在では、一番多い呼び方は、
単に『だら』。
おっさん達みたいな特殊な家柄では、
『かんかんだら』の呼び方が使われるらしい。
もはや、神話や伝説に近い話。
人を食らう大蛇に悩まされていた
ある村の村人達は、神の子として
様々な力を代々受け継いでいた、
ある巫女の家に退治を依頼した。
依頼を受けたその家は、
特に力の強かった一人の巫女を、
大蛇討伐に向かわせる。
村人達が陰から見守る中、巫女は
大蛇を退治すべく、懸命に立ち向かった。
しかし、わずかな隙をつかれ、
大蛇に下半身を食われてしまった。
それでも巫女は村人達を守ろうと
様々な術を使い、必死で立ち向かった。
ところが、
下半身を失っては勝ち目がないと
決め込んだ村人達はあろう事か、
巫女を生け贄にする代わりに、
村の安全を保障してほしいと、
大蛇に持ちかけた。
強い力を持つ巫女を、
疎ましく思っていた大蛇は、
それを承諾。
食べやすいようにと、
村人達に腕を切り落とさせ、
達磨状態の巫女を食らった。
そうして、村人達は一時の平穏を得た。
後になって、巫女の家の者が思案した
計画だった事が明かされる。
この時の巫女の家族は六人。
異変はすぐに起きた。
大蛇がある日から姿を見せなくなり、
襲うものがいなくなったはずの村で、
次々と人が死んでいった。
村の中で、山の中で、森の中で。
死んだ者達は皆、右腕・左腕の、
どちらかが無くなっていた。
十八人が死亡。(巫女の家族六人を含む)
生き残ったのは四人だった。
おっさんと葵が交互に説明した。
伯父「これが、いつからどこで
伝わってたのかはわからんが、
あの箱は一定の周期で
場所を移して供養されてきた。
その時々によって管理者は違う。
箱に家紋みたいのがあったろ?
ありゃ今まで供養の場所を
提供してきた家々だ。
うちみたいな家柄のもんで、
それを審査する集まりがあってな、
そこで決められてる。
まれに自ら志願してくるバカもいるがな。
管理者以外にゃ、
かんかんだらに関する話は
一切知らされない。
付近の住民には、
いわくがあるって事と、
万が一の時の相談先だけが、
管理者から伝えられる。
伝える際には相談役、つまり、
わしらみたいな家柄のもんが
立ち合うから、それだけで
いわくの意味を理解するわけだ。
今の相談役はうちじゃねえが、
至急って事で、
昨日うちに連絡がまわってきた」
どうやら、一昨日Bのお母さんが
電話していたのは別のとこらしく、
話を聞いた先方は、
Bを連れてこの家を尋ね、
話し合った結果、
こっちに任せたらしい。
Bのお母さんは、
オレ達があそこに行っていた間に、
すでにそこに電話してて、
ある程度詳細を聞かされていたようだ。
葵「基本的に、山もしくは
森に移されます。
御覧になられたと思いますが、
六本の木と六本の縄は村人達を、
六本の棒は巫女の家族を、
四隅に置かれた壺は、
生き残られた四人を表しています。
そして、六本の棒が成している
形こそが、巫女を表しているのです。
なぜこのような形式がとられるように
なったか。箱自体に関しましても、
いつからあのようなものだったか。
私の家を含め、今現在では、
伝わっている以上の詳細を
知る者は、いないでしょう」
ただ、最も語られてる説としては、
生き残った四人が、
巫女の家で怨念を鎮めるための、
ありとあらゆる事柄を調べ、
その結果生まれた、
独自の形式ではないか・・・、
という事らしい。
柵に関しては、
鈴だけが形式に従ったもので、
綱とかは、この時の管理者によるもの
だったらしい。
伯父「うちの者で、
かんかんだらを祓ったのは
過去に何人かいるがな、
その全員が
二、三年以内に死んでんだ。
ある日突然な。
事を起こした当事者も、
ほとんど助かってない。
それだけ難しいんだよ」
ここまで話を聞いても、
オレ達三人は、
完全に置いてかれてた。
きょとんとするしかなかったわ。
だが、事態はまた一変した。
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