姦姦唾螺 2/7

何かひんやりした空気を、

感じずにはいられなかった。

 

周囲に、オレ達が持つ以外の光はない。

 

月は出てるが木々に遮られ、

ほとんど意味はなかった。

 

懐中電灯つけてんだから、こっちの位置が

わかるのは不思議じゃない・・・

 

だが、一緒に歩いてるオレ達でさえ、

互いの姿を確認するのに

目を凝らさなきゃいけない暗さだ。

 

そんな暗闇で、光もなしに何してる?

なぜ、オレ達と同じように動いてんだ?

 

B「ふざけんなよ。誰かオレ達を

尾けてやがんのか?」

 

A「近づかれてる気配はないよな。

向こうは、さっきからずっと

同じぐらいの位置だし」

 

Aが言うように、森に入ってからここまでの

二十分ほど、オレ達とその音との距離は、

一向に変わってなかった。

 

近づいてくるわけでも、

遠ざかるわけでもない。

 

終始、同じ距離を保ったままだった。

 

オレ「監視されてんのかな?」

 

A「そんな感じだよな・・・カルト教団とかなら、

何か変な装置とか持ってそうだしよ」

 

音から察すると、複数ではなく、

一人がずっとオレ達に、

くっついてるような感じだった。

 

しばらく足を止めて考え、

下手に正体を探ろうとするのは

危険と判断し、

一応あたりを警戒しつつ、

そのまま先へ進む事にした。

 

それからずっと音に付きまとわれながら

進んでたが、やっと柵が見えてくると、

音なんかどうでもよくなった。

 

音以上に、その柵の様子の方が

意味不明だったからだ。

 

三人とも見るのは初めてだったんだが、

想像以上のものだった。

 

同時に、それまでなかった、

ある考えが頭によぎってしまった。

 

普段は霊などバカにしてる

オレ達から見ても、その先にあるのが

現実的なものでない事を、

示唆しているとしか思えない。

 

それも、半端じゃなくやばいものが。

 

まさか、そういう意味で

いわくつきの場所なのか・・・?

 

森へ入ってから初めて、今オレ達は

やばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。

 

A「おい、これぶち破って奥行けってのか?

誰が見ても普通じゃねえだろこれ!」

 

B「うるせえな、こんなんで

ビビってんじゃねえよ!」

 

柵の異常な様子に怯んでいた

オレとAを怒鳴り、

Bは持ってきた道具あれこれで、

柵をぶち壊し始めた。

 

破壊音よりも、鳴り響く

無数の鈴の音が凄かった。

 

しかし、ここまでとは想像してなかったため、

持参した道具じゃ貧弱すぎた。

 

というか、不自然なほどに頑丈だったんだ。

 

特殊な素材でも使ってんのかってぐらい、

びくともしなかった。

 

結局、よじ登るしかなかったんだが、

綱のおかげで登るのはわりと簡単だった。

 

だが、柵を越えた途端、

激しい違和感を覚えた。

 

閉塞感と言うのかな、

檻に閉じ込められたような

息苦しさを感じた。

 

AとBも同じだったみたいで、

踏み出すのを躊躇したんだが、

柵を越えてしまったからには、

もう行くしかなかった。

 

先へ進むべく歩きだしてすぐ、

三人とも気付いた。

 

ずっと付きまとってた音が、柵を越えてから

バッタリ聞こえなくなった事に。

 

正直そんなん、もうどうでもいい、

とさえ思えるほど嫌な空気だったが、

Aが放った言葉で、

さらに嫌な空気が増した。

 

A「もしかしてさぁ、そいつ・・・

ずっとここにいたんじゃねえか?

この柵、こっから見える分だけでも

出入口みたいなのはないしさ、

それで近付けなかったんじゃ・・・」

 

B「んなわけねえだろ。

オレ達が音の動きに気付いた場所ですら、

こっからじゃもう見えねえんだぞ?

それなのに、入った時点から

オレ達の様子がわかるわけねえだろ」

 

普通に考えれば、

Bの言葉が正しかった。

 

禁止区域と森の入り口は、

かなり離れてる。

 

時間にして四十分ほどと書いたが、

オレ達だってちんたら歩いてたわけじゃないし、

距離にしたらそれなりの数字にはなる。

 

だが、現実のものじゃないかも・・・

という考えがよぎってしまった事で、

Aの言葉を頭では否定出来なかった。

 

柵を見てから絶対やばい、

と感じ始めていたオレとAを尻目に、

Bだけが俄然強気だった。

 

B「霊だか何だか知らねえけどよ、

お前の言う通りだとしたら、

そいつはこの柵から出られねえって事だろ?

そんなやつ大したことねえよ」

 

そう言って奧へ進んでいった。

 

柵を越えてから二、三十分歩き、

うっすらと反対側の柵が見え始めたところで、

不思議なものを見つけた。

 

特定の六本の木に注連縄が張られ、

その六本の木を六本の縄で括り、

六角形の空間が作られていた。

 

柵にかかってるのとは別の、

正式な物っぽい紙垂もかけられてた。

 

そして、その中央に賽銭箱みたいなのが、

ポツンと置いてあった。

 

目にした瞬間は、

三人とも言葉が出なかった。

 

特にオレとAは、

マジでやばい事になってきたと、

焦ってさえいた。

 

バカなオレ達でも、

注連縄が通常どんな場で、

何のために用いられてるものか、

何となくは知ってる。

 

そういう意味でも、

ここを立入禁止にしているのは、

間違いなく、

目の前のこの光景のためだ。

 

オレ達は、とうとう来るとこまで

来てしまったわけだ。

 

(続く)姦姦唾螺 3/7へ

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