姦姦唾螺 7/7

伯父「お母さん、

どれだけやばいものかは

何となくわかったでしょう。

さっきも言いましたが、

棒を動かしてさえいなければ、

何とかなりました。しかし、

今回はだめでしょうな」

 

B母「お願いします。

何とかしてやれないでしょうか。

私の責任なんです。

どうかお願いします」

 

Bのお母さんは引かなかった。

 

一片たりとも

お母さんのせいだとは思えないのに、

自分の責任にしてまで頭を下げ、

必死で頼み続けてた。

 

でも、泣きながらとかじゃなくて、

何か覚悟したような表情だった。

 

伯父「何とかしてやりたいのは、

わしらも同じです。しかし、

棒を動かしたうえで、

あれを見ちまったんなら・・・。

お前らも見たんだろう。

お前らが見たのが、

大蛇に食われたっつう巫女だ。

下半身も見たろ?

それであの形の意味が

わかっただろ?」 

 

「・・・えっ?」

 

オレとAは、

言葉の意味がわからなかった。

 

下半身?オレ達が見たのは、

上半身だけのはずだ。

 

A「あの、下半身っていうのは・・・?

上半身なら見ましたけど・・・」

 

それを聞いて、おっさんと葵が驚いた。

 

伯父「おいおい何言ってんだ?

お前ら、あの棒を動かしたんだろ?

だったら下半身を見てるはずだ」

 

「あなた方の前に現われた彼女は、

下半身がなかったのですか?

では、腕は何本でしたか?」

 

「腕は六本でした。左右三本ずつです。

でも、下半身はありませんでした」

 

オレとAは、互いに確認しながら、

そう答えた。

 

すると、急におっさんがまた身を乗り出し、

オレ達に詰め寄ってきた。

 

伯父「間違いねえのか?

ほんとに下半身を見てねえんだな?」

 

オレ「は、はい・・・」

 

おっさんは、再びBのお母さんに顔を向け、

ニコッとして言った。

 

伯父「お母さん、何とかなるかもしれん」

 

おっさんの言葉に、

Bのお母さんもオレ達も、

息を呑んで注目した。

 

二人は、言葉の意味を説明してくれた。

 

「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、

二つあります」

 

「やってはならないのは、

巫女を表すあの形を変えてしまう事。

見てはならないのは、

その形が表している巫女の姿です」

 

伯父「実際には、

棒を動かした時点で終わりだ。

必然的に巫女の姿を、

見ちまう事になるからな。

だが、どういうわけか、

お前らはそれを見てない。

動かした本人以外も同じ姿で

見えるはずだから、

お前らが見てないなら、

あの子も見てないだろう」

 

オレ「見てない、っていうのは、

どういう意味なんですか?

オレ達が見たのは・・・」

 

「巫女本人である事には

変わりありません。ですが、

かんかんだらではないのです。

あなた方の命を奪う意志が

なかったのでしょうね。

かんかんだらではなく、

巫女として現われた。

その夜の事は、彼女にとっては、

お遊戯だったのでしょう」

 

巫女とかんかんだらは同一の存在であり、

別々の存在でもある・・・?という事らしい。

 

伯父「かんかんだらが出て来てないなら、

今あの子を襲ってるのは葵が言うように、

お遊び程度のもんだろうな。

わしらに任せてもらえれば、

長期間にはなるが、

何とかしてやれるだろう」

 

緊迫していた空気が、

初めて和らいだ気がした。

 

Bが助かるとわかっただけで

充分だったし、

この時のBのお母さんの表情は、

本当に凄かった。

 

この何日かで、

どれだけBを心配していたか、

その不安とかが一気にほぐれたような、

そういう笑顔だった。

 

それを見て、おっさんと葵も雰囲気が和らぎ、

急に普通の人みたいになった。

 

伯父「あの子は正式に、

わしらで引き受けますわ。

お母さんには

後で説明させてもらいます。

お前ら二人は、一応

葵に祓ってもらってから帰れ。

今後は、怖いもの知らずも

ほどほどにしとけよ」

 

この後Bに関して少し話したのち、

お母さんは残り、オレ達は、

お祓いしてもらってから帰った。

 

この家の決まりだそうで、

Bには会わせてもらえず、

どんな事をしたのかもわからなかった。

 

転校扱いだったのか、

在籍してたのかは知らんが、

これ以来一度も見てない。

 

まぁ死んだとか言うことはなく、

すっかり更正して、今はちゃんと

どこかで生活してるそうだ。

 

ちなみにBの親父は一連の騒動に、

一度たりとも顔を出してこなかった。

どういうつもりか知らんが。

 

オレとAも、わりとすぐ落ちついた。

 

理由はいろいろあったが、

一番大きかったのは、

やっぱりBのお母さんの姿だった。

 

ちょっとした後日談もあって、

たぶん一番大変だったはずだ。

 

母親ってのがどんなもんか、

考えさせられた気がした。

 

それにこれ以来、うちもAんとこも、

親の方から少しづつ、

接してくれるようになった。

 

そういうのもあって、

自然とバカはやらなくなったな。

 

一応、他にわかった事としては、

特定の日に集まってた巫女さんは、

相談役になった家の人。

 

かんかんだらは、危険だと

重々認識されていながら、

ある種の神に似た存在にされてる。

 

大蛇が、山だか森だかの神だったらしい。

 

それで年に一回、神楽を舞ったり、

祝詞を奏上したりするんだと。

 

あと、オレ達が森に入ってから

音が聞こえてたのは、

かんかんだらは、柵の中で

放し飼いみたいになってるかららしい。

 

でも、六角形と箱のあれが

封印みたいになってるらしく、

棒の形や六角形を崩したりしなければ、

姿を見せる事はほとんどないそうだ。

 

供養場所は何らかの法則によって、

山や森の中の限定された一部分が

指定されるらしく、

入念に細かい数字まで出して、

範囲を決めるらしい。

 

基本的に、その区域からは

出られないらしいが、

柵などで囲んでる場合は、

オレ達が見たみたいに

外側に張りついてくる事もある。

 

わかったのは、これぐらい。

 

オレ達の住んでるとこからは、

もう移されたっぽい。

 

二度と行きたくないから

確かめてないけど、

一年近く経ってから

柵の撤去が始まったから、

たぶん今は、

別の場所にいるんだろな。

 

(終)

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