うじの話 3/5

S「まあ、普通に考えれば分かることだが。

あの話の中には、一つ、嘘がある」

 

それはつまり、登場人物の誰かが

嘘をついたということだろうか。

 

と言っても、

 

先のSの話の登場人物は

それほど多くない。

 

そしてS自身は、

 

先程自分の体験が嘘では無い

と言った。

 

ならば残された人物は・・・。

 

「・・・先輩が、嘘をついてた?」

 

そうだとSが頷く。

 

「でも、何について?」

 

ため息が聞こえる。

 

おそらくは、僕の頭の回転の鈍さに

嫌気がさしているのだろう。

 

ああ駄目だ駄目だ。

自分で頭を叩く。

 

Sに頼りっきりでどうする。

考えろ考えろ僕の頭。

 

先輩は嘘をついていたのだ。

何についてか。

 

元カノについて?

手紙について?

ストーカー被害について?

 

違う。

 

「・・・蛆虫だ」

 

僕はようやくそこに行き着いた。

考えてみれば当然のことだった。

 

最初から『怖い話』として

聞いていたせいで、

 

常識的な考え方が

すっかり抜け落ちていた。

 

Sを見る。

 

僕の答えは正解だったようだ。

 

S「そうだな。

不自然なのは蛆の話だ。

 

普通に考えて、

 

蛆が下水を通って上って来るなんて

ありえない。

 

排水溝には虫の侵入を防ぐ

トラップもあるしな。

 

まあ、そこを無視して成立するから

ホラーなわけだが、

 

現実ではそうもいかない。

つまり、嘘だ。

 

あれは先輩の作り話だったんだ」

 

僕は自分の家の排水溝を

覗き込んだ時のことを思い出した。

 

確かに虫が上って来れない

構造になっていた。

 

それに元々、

 

定期的に水を流していれば、

虫は侵入出来ない。

 

現実。

 

そうだ、ここは現実なのだ。

 

その言葉が、

 

僕の脳内に記憶されている

Sの体験談を徐々に浸食していく。

 

S「飲み会があった日は、先輩の

元カノが死んで十日が経った頃だった。

 

しかも、蛆が出ると言った場所は、

シンク、風呂、トイレ、

 

全部下水から繋がった場所。

 

・・・ここまでくれば、

自然と一つの推測が成り立つ」

 

そこまで言うと、

Sは少し間をおいた。

 

S「・・・少なくとも、飲み会のあった日。

 

先輩は、元カノがどういう状態で

死んでいるのかを知っていた。

 

見つけてたんだ。

 

彼女の遺体を、

誰よりも早く」

 

現実的に考えて、

先輩の家に蛆が現れることはない。

 

けれど先輩は、S達に

居もしない蛆の話をした。

 

『彼女の呪いかもしれない』

 

という言葉まで添えて。

 

そして、実際彼女は

蛆の湧いた状態で見つかった。

 

S「・・・でもさ、

それだけなら、

 

ただの冗談とか、

偶然ってこともあるんじゃない?

 

お酒も入ってたわけだし・・・」

 

するとSは黙って立ち上がり、

 

戸棚の中から何かを取り出して

僕に見せた。

 

それは、何か文字の書かれた

二枚のルーズリーフだった。

 

「・・・何これ?」

 

S「彼女の遺書の一部」

 

「い!?」

 

Sはそれを僕の目の前に置く。

 

一枚は普通の文面で

何か書かれている。

 

そしてもう一枚には、

 

誰かの名前を中央に、

夥しい数の『呪う』が書かれていた。

 

それはSの話に出てきた、

彼女の呪いの手紙と酷似している。

 

何故こんなものがここにあるのか。

 

何も言えずに僕はSを見やる。

Sは肩をすくめた。

 

S「俺だって、蛆の話だけで

決め付けたわけじゃない。

 

ただ、疑いは持った。

 

それで、事件の後しばらくしてから、

先輩んちに行ってな。

 

隙を見て探したら、

それ出てきた。

 

飲み会した時にも、

気にはなったんだ。

 

棚には鍵掛かってたんだが。

そこはまあ、・・・アレでな」

 

アレと言うのはおそらく、

ここに書いてはいけない技術のことだ。

 

が、まあそれはいいとしてだ。

 

僕は再び彼女の遺書に視線を戻す。

 

『呪う』と書かれた紙とは別の方。

 

そこには『私』と称した

一人の女性が、

 

付き合っていたとある男に浮気され

捨てられそうになる、

 

その現状が書かれていた。

 

S「そこにある男ってのが、

先輩だ」

 

とSが言った。

 

S「先輩は彼女の家の合鍵を持っていた。

 

随分前に別れたと言っていたが、

実際はまだ『合鍵を持てる程の関係』だった。

 

まだ先輩は別れていなかったんだ。

 

もしかしたら、その話をするために、

彼女の家へ行ったのかもな」

 

遺書の最後には、

 

『今死ねば、私はずっと

あなたの彼女でいられる』

 

と書かれてあった。

 

この二枚の遺書を先輩は持っていた。

 

しかし、ふと単純な疑問がよぎる。

 

「・・・どうしてすぐに燃やしたり

しなかったんだろう?遺書」

 

S「だよな。ま、過ぎたことだ。

 

そこは、本人に訊く以外、

何をもってしても想像でしか埋まらん」

 

Sもそこについては

よく分かってないようだ。

 

何らかの後悔や、それを持つことで

贖罪の意識があったのかもしれない。

 

(続く)うじの話 4/5へ

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